富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農暦三月廿三日

農暦三月廿三日。香港で土曜朝は慈善募金活動の「賣旗」盛んで幼子が親とこれに従事は微笑ましい。朝も親子が地下鉄入り口にゐたので賣旗かと小銭入れ開けながら近づいて行つたら賣旗ではなく人待ちかでたゞ立つてゐただけ。かなり怪訝に、物乞ひか?と思われた模様。 中環。FCCで週末の新聞読み。跑馬地にて家人と待合せ取引先の銀行支店に野暮用済ます。昼餉は佳餚美饌(Gastronomic Passion)にて今どきスープか飲み物付きでHK$47(670円)はかなり良心的。

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中環行きのバス待ちで1993〜96年まで住んでゐたマンション見上げ当時のいろいろな記憶に耽る。

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家賃が当時HKD12Kだったのが18Kと言はれ「この狭い部屋で冗談ぢゃない」と退去。銅鑼湾に出る家人と別れ中環。FCCで珈琲飲みながら書き物して時間を潰し香港日本文化協会へ。九州大学文化財学専門の福島綾子助教による“Japan and Christianity - from Hidden Cristian Age to Secularized Contemporary Time”といふ発表を聴く。かつて「隠れクリスチャン」といはれてゐたものは現在は江戸時代の禁教令の下、天主教を偽装破棄し仏教信仰と見せかけ天主教隠れて信奉の「潜伏クリスチャン」と、明治6年の禁教令廃止後もそれまでの秘教の伝統的な形を守り天主教会に戻らずだつた「かくれキリシタン」と分別される。遠藤周作の『沈黙』を思ひ出しながら隠れ切支丹の独特の宗教性についての概論を聴く。本来のバチカンによる教義からもかなり離れマリア懐妊の話に「ルソンの王様」出てきたり、今でも和室の床の間に榊を置きお神酒を捧げ中国画のやうな天神様の掛け軸の横、十字架がありイエス様の肖像があるやうな不思議な空間。鎖国と禁教といふ条件下で二百年でキリスト教がどう土着化したか、は興味深い。ところで日本では文化庁の発表によると耶蘇は約200万人。それに対して仏教と神道がやたら多く全ての宗教の信者数を合計すると1.8億人といふ人口が1.24億人の日本で不思議な集計結果となるが、これは仏教の寺なら檀家の数や神道なら参拝者数まで信者と数えるからで、それに対して耶蘇は洗礼受けたり礼拝に通ふ者を信者とすれば当然、信者数に大きな乖離生じ1.8億人のうち9割以上を仏教と神道が二分して耶蘇は1.1%ばかり。それでも福岡・佐賀と熊本の三県で天主教徒は29千人で人口の0.4%に対して長崎県は6万人で人口の4.3%とかなり高い。ちなみに香港の耶蘇は英国教会系とプロテスタントが多く天主教信者は人口の約5%といはれる。海外でかうして日本の宗教事情を説明すると生まれれば七五三まで神社に詣で耶蘇の教会で結婚式を挙げ葬式と法事は仏教でといふ日本人の宗教に対する節操のなさは興味深く見られる。多神教といふのは一神教に対して神道八百万の神のやうに神の多くゐる宗教のことで日本の神仏混合?は別。今日の福島先生の発表はあくまで日本の隠れ切支丹といふ独特の耶蘇形態の紹介だつたのだと思ふが演題が「日本とキリスト教 - 隠れ切支丹の時代から世俗的な現代まで」とあつたので熱心な基督者の聴手多く「日本人にとつての宗教、天主教」といつた関心にあつては彼らの疑問に明確な答へは困難。黄昏時に驟雨で黄色警報発生。帰宅してテレビをつけると、見たいのはBS12トゥエルビなるチャンネルで萩原健一の追悼番組であつたが海外でのストリーミングでこのチャンネルは見られないやう。日本映画専門チャンネル勝新太郎座頭市で昭和37年の〈続・座頭市物語〉に引き込まれる。

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座頭市に惚れる街道筋の飯炊女に水谷良重。一年前、前作の〈座頭市物語〉で心ならずも斬つてしまつた平手造酒一周忌のため笹川宿に向かふ座頭市、女をめぐるいざこざで市に切られ片腕失つた兄・渚の与四郎が何の因縁かまた市と切る切られるになるのだが、この与四郎役が勝新太郎の兄・城健三郎(後の若山富三郎)で盲ながら天性の才を発揮する魅力ある弟に対する兄の姿が梨園のどこかの家ぢゃないが実に興味深いところ。

▼お茶大付属中学に進学した秋篠宮家の殿下の教室机上に何ものかがピンクに塗られたナイフを置いたといふ。どこまで何か画策しての嫌がらせなのか、かうした手口で殿下も精神的に何かトラウマ生じるかもしれず学校の安全管理体制だの警察公安による警備強化だの、とにかく悪い方にしか向かず。

中共政府の書籍出版販売で睨まれた元・銅鑼湾書店の経営者が中共が香港に施す逃犯条例での検挙怖れ台湾に事実上の亡命の由。怖い時代になつた。