富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

深湾線で八斗子

農暦二月廿三日。薄曇。何年ぶりかで朝、J-WAVEでジョン=カビラさんの番組に電話で話す。日本が年度末で、といふ話題だがアタシの前に話した紐育からの方が米国では企業は一月〜で政府は夏が終はり十月からが会計年度でと話され三月=年度末感がないと話され香港はそれに比べると英国流で政府も会計年度を四月からとしてはゐるものゝ日本のやうに人事異動から学校の入学式まで全てが四月といふ会計年度を基準に(アト付けでソメイヨシノが咲いてゐるが)世の中が動く方が奇妙でなかなか話のネタに苦労。そも/\何故に会計年度が四月からなのか、といふのをローマ暦が春の始まりで今の三月が新年で前の年の〆に一ヶ月かゝるとすると会計年度が四月からとなる、その習慣が英国に残り……と耳学問で香港とは関係のない話。昨日までは台北で日中は摂氏卅度近くまで上がつたが今日は廿五度が最高気温だといふ。今日も何もする予定もないが昨日、蘇澳まで台鉄乗り潰しに行つたので今日は東幹線でもう一路線まるで盲腸のやうにある瑞芳から海沿ひの八斗子までの深湾線に乗つてみようか、といふことになる。

f:id:fookpaktsuen:20190330130755j:image

元々は鉱山から鉱石を船に積み込む運搬鉄道だつたが戦後、これが旅客鉄道となり、それも1989年に不採算で廃線に。それが八斗子の手前の沿線に国立の海洋公園が出来たことで旅遊客目当てで2014年に鉄道再開といふ珍しい路線。台北車站で切符購入しようとしてゐると日本語の達者な叔父さんが日本人見つけては案内係してゐてアタシらにも瑞芳なら悠遊卡で行ける、切符を買ふ必要はない、悠遊卡だと正規運賃より一割引きと説明される。

f:id:fookpaktsuen:20190330130928j:image

鉄道好きなので切符を買いたいんです、といふと怪訝さう。午前九時過ぎの東回りの区間車(各駅停車)は瑞芳行きで客の全員が丁度座れる程度の乗車率だが半数が日本人か? 九份、十份は日本人の台北からの日帰り観光で定着。これだと台北站で日本語案内の叔父さんも朝は活躍なのかも。ぼんやりと乗つてゐたら五堵站を過ぎ次の百福站に入線する手前で後続の優等列車に抜かれて複々線?と驚いたら五堵から基隆線の分岐する八堵までは複線の間に更に一本線路を敷いた複単線。これは上手に運行せぬと衝突事故が怖い。このあたり線路の北側を線路に並行して基隆河が流れてゐる。台北市内で基隆河と聞くと河は港町の基隆が河口で太平洋に流れ出るような印象あるが実際は逆で基隆河は基隆の方から台北を経て淡水が河口。八堵から列車は基隆に出る支線と別れ山間に入ると左手の渓谷に河が流れてゐるが、これも基隆河。この源流が鉄道でいへば平渓線の十份にある瀑布なのだから。

f:id:fookpaktsuen:20190330134319j:image

小一時間で瑞芳に着く。こゝは十份、終点の菁桐に至る平渓線始発のため平日でも行楽客多し。今日の目的はこゝから深湾線で八斗子に向かふことなのだが列車は東部幹線に対して瑞芳でXに交叉する形で平渓線の菁桐〜深湾線の八斗子の運行がされてゐるので平渓線の下りで十份まで行き、こゝが単線の平渓線列車交換なので十待ち站員の猫を愛で菁桐発の上り列車に乗り瑞芳を経て深湾線に入る。

f:id:fookpaktsuen:20190330123759j:image

列車の検札で台北〜八斗子の切符で区間外になる平渓線乗車のため追加料金発生。といつてもNTD30(120円)ほど。東部幹線(宜蘭線)からの分岐でタイミングよく台北花蓮の普悠瑪號と遭遇。


 立海洋科技博物館なる施設へのアクセスで出来た海科館站は平日とはいへ閑古鳥。これは無理あり。短いトンネルを潜ると太平洋一望で、そこが八斗子。

f:id:fookpaktsuen:20190330124448j:image☝️本日は曇天で、この画像は網上での拾ひ画像
f:id:fookpaktsuen:20190330124453j:image

これで瑞芳〜八斗子も乗つたので台湾鉄道で残す区間は西部幹線の海線(竹南〜大甲〜彰化)だけ。

f:id:fookpaktsuen:20190330123717j:image

乗り潰すだけなら気軽に行ける路線なのだが途中、戦前の鉄道施設等点在で折角乗るのなら途中下車しての一日旅で台北から日帰りは強硬すぎて未踏のまゝ。八斗子はホームから太平洋一望の絶景ださうで「台湾で一番眺めのよいローカル線の站」といふのも納得。山間の平渓線の遊覧賑はひに比べ此方は閑か。同じ列車で来て二十分後の折り返し待つのはアタシらと台湾人の叔父さん叔母さんの小グループと日本から来た鉄ちゃんとその相棒の地元の鉄ちゃんだけ。瑞芳に折り返し三十分程待ち台北行きの区間車で還る。列車は汐止を過ぎると地下に潜る。横須賀・総武線快速錦糸町から都心へ地下鉄道となるのと一緒だが面白くない。侯孝賢監督の映画《恋恋風塵》で九份に生まれ育つた少年と少女が中学を出て台北に出てくる、当時の列車と昭和16年に竣工した台北旧站と、そこまでの路線が懐かしい。


台北旧站は1986年に取り壊し始まつたので1987年に完成した《恋恋風塵》での撮影が映画映像としては旧站の最期の頃の映像か。


今日が台北最後なのでお決まりで老牌牛肉拉麺へ。遅めの昼餉。

f:id:fookpaktsuen:20190330124337j:image

極太で硬めの饂飩も歯応へ格別だが兎に角、スープが美味い。牛肉湯麺でバラ牛肉の具なし。牛肉湯麺は<牛肉+湯麺>にあらず<牛肉湯+麺>ということ。華人と一旦別れ西門へ。誠品書店など徘徊。午後五時前に善導寺のホテルに戻り旅荷受け取り地下鉄で台北車站へ。台鉄、台北捷運と桃園機場捷運がいくら運営が別とはいへ、この乗り換への不便は甚だ難儀。とにかく桃園機場捷運が離れてゐる上に站構内の地下を遠回りさせられる。地元民も苦慮するところ。

影/台北車站變機捷迷魂陣?桃捷女孩帶你走捷徑! | 生活 | 三立新聞網 SETN.COM

桃園空港。小一時間でCX565便に晩七時の搭乗。大阪からの便。搭乗してから香港上空の低気圧の悪天候で晩のラッシュアワーで着陸便が混雑で台北からの便は香港からの出発見合はせ要求が出てゐるとアナウンス。

f:id:fookpaktsuen:20190330124301j:image

途中で「もうすぐ出発」と機長のアナウンスもあつたが結局、離陸は21:55で搭乗から三時間近く機中で待機させられたことになる。それなのに香港の空港のフライト情報では21:30にほぼ予定通り到着のまゝ。

f:id:fookpaktsuen:20190330130527j:image

この時間、まだ飛行機は台北も離陸してゐないのに。うんざり。タブレットで昨日の日記を上網してから読書。機内食で魯肉飯供される。台北からの戻りで魯肉飯は「もううんざり」なのだが。

f:id:fookpaktsuen:20190330123937j:image

香港着陸は23:22で遅延便でかなり混雑かと思ひきや香港上空で着陸待ちだつたフライトの混乱があつたあとは、その調整のため出発から待機させられた台北や温州などの近距離便遅延だけとなつてゐた。

f:id:fookpaktsuen:20190330123634j:image

24:16のエアポートエクスプレスで市内に還る。この時間でも十数分間隔で深夜一時までアクセス鉄道が動いてゐるだけでもまだ御の字。だがこの列車で香港站に着くと中環站からの港島線の終電まで3分だといふ。走つても間に合はずタクシーもかなり待たされる。
台北にゐたので『台北ストーリー』(国書刊行会、1999年)読む。当時、まだ日本ではあまり紹介されてゐなかつた台湾の現代文学。注目される作家の短編を集めたもの。いずれも1970年代末から80年代にかけての国府独裁から戒厳令解除にかけての台北が舞台。
① 張系国『夜曲』ノクターン 山口守訳
② 朱天心『我記得』記憶のなかで 三木直大訳
③ 張大春『将軍碑』将軍の記念碑 三木直大訳
④ 黄凡『総統的販賣機』総統の自動販売機 渡辺浩平訳
⑤ 朱天文『伊甸不再』エデンはもはや 池上貞子訳
⑥ 平路『台湾奇蹪』奇跡の台湾 池上貞子訳
白先勇『金大班的最後一夜』最後の夜 山口守訳
②の朱天心と⑤の朱天文は母親は台湾人だが作家のいずれもが外省人家庭に生まれ育つてゐるのが興味深い(黄凡は不明)。ポスト蒋介石の時代、蒋経国戒厳令継続と党外の活動家たちの国民党独裁への抵抗、戒厳令解除といふ時代に彼らの外省人としての原籍と台湾に育つ台湾のアイデンティティが葛藤のなかで不安定な心理で、いずれの作品も、それを当時の台北という都市の物語として描く。国民党派の父親の世代との話では③ 張大春『将軍碑』が面白く、当時の政治状況を滑稽でシニカルに描いてゐる点では④ 黄凡『総統的販賣機』が出色。読み終はつたら台北でホテルにでも置いてくるつもりが香港に還るフライトの中で読了。

台北(たいぺい)ストーリー (新しい台湾の文学)