富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一町一シャッターに宿る平成の天皇制

農暦二月初六。晴。久々の青空。母からLINEで画像送られてくる。

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郷里の今では寂しくなつた商店街の一角で小さな建物の取り壊し。大正時代に創業の老舗の飲食店は2003年夏に閉業。半世紀ほど前に大通りから移転した先はとなりの八百屋の土地で建物は残つてゐたが八百屋も廃業してをり引越しが決まり建物も解体で工事が始まつたのだといふ。また一つ昭和の賑やかだつたころの商店街の一角が更地になる。燈刻、夕日がきれい。ビクトリア公園通りかゝりベンチで缶ビール飲む。文藝春秋4月号をぱらぱらと眺めてゐたが公園を通りかゝる人たちから見たら中年の悲哀に映るかしら。

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文藝春秋4月号で巻頭グラビアに一龍斎貞水師匠。この方は「貞丈さんのお弟子」の印象だつたのだが今では講談の第一人者で人間国宝。湯島の自宅の楼下は師匠の女将さんの営む居酒屋で師匠がそこで飲む姿が何とも微笑ましい。対談で永田和宏歌人歌会始の読進選者を15年)と川島裕(前侍従長)が両陛下の御製と御歌について。御製も立派だがやはり平成の大歌人としての皇后の凄さ。

ためらひつゝあれども行く傍らに立たむと君のひたに思せば (熊本地震被災地訪問)
君とゆく道の果たての遠白く夕暮れてなほ光あるらし

この号の特集は「平成31年を作った31人」で毎年に脚光浴びた1人選んでゐるのだが、これも昭和31年の最後は皇后陛下とは……書き手は歌人の奥野弘彦。この特集の総括(対談)「戦争のない31年が作り出したもの」で佐藤優池上彰と語つてゐるのもまさに平成は天皇の時代で今上さんが憲法に則り「象徴天皇とはいかにあるべきか」で「国民に寄り添ふ」といふ姿勢を明らかにして、それが多くの災害を契機なのがつらいところだが、アタシはこれが理想的な形だが「象徴天皇のあり方が、それだけ天皇個人に依存している」(佐藤)ことが危うくもあり。この号の書評で赤坂真理著『箱の中の天皇』につき評者・片山杜秀南北朝の時代を引き合ひにした論究も興味深い。

戦後日本は、現実的には対米従属国家であり、理念的には理想主義的民主国家である。かつては上手に取り繕われてきた両者が顕著に乖離しだし、ついに国民の分裂を招いて「南北朝の対立」を顕在化させたのが平成時代と言える。私心なく欲なき天皇は理想の側に付く。しかも理想主義的民主国家像を日本に与えたのもアメリカ。ややこしい。ポスト平成には、理想主義と現実主義の激突する、現代の湊川合戦や四条畷合戦が展開するだろう。14世紀の南朝方の「聖書」と言えば北畠親房の『神皇正統紀』だが、本書(箱の中の天皇)はさしずめその現代版。「人間天皇正当紀」と呼びたい。

戦後の先帝の時代を経て、まさか平成の世が「一木一草に宿る天皇制」の時代になるとは思つてもみなかつた。