富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

孫歌『竹内好という問い』

正月初四。春を越して初夏のやう。春節の三連休は終はつたが今日は金曜で明日から周末だし大陸の工場も香港の建築現場も動いてゐないので休暇が続いてゐるやう。マンションの管理事務所は再開したので早速、陋宅の水漏れのチェックを頼む。家人の話では来たには来たがマンションを縦に貫く本管に異常が見られなかったら、これは店子の自責と言っただけで去つたといふ。それはさうなるだらうが管理事務所に電話して水道管はマンション完成時から弄つていないから水電の図面写しをくれ、このマンションの水電工事に明るい業者を紹介してくれ、と求めると「連休明けなら対応してくれるだらう」と業者紹介はしてくれたが「図面はない」といふ。そして不図、費用発生は致し方ないにせよ保険は?と思つたが、かうした水電関係の保証込みの火災保険等に不覚にも入つてをらず。クレジットカードの保険は?旅行時の不慮の事故ばかりと思つたがAmexだけは電話すると、いつも“For road, Home accident support, please press 4”とか聞いてゐたのを思ひ出し電話してみると、これは旅行と違つて保険ではないが、かうしたアクシデントの場合、緊急で業者紹介と費用発生の場合HK$1,000だけは年会費でカバーされるといふ。Amexの緊急時の対応なので見積りからして高そうだが今晩でも業者を遣るやう努めるといふし見積りだけの場合はHK$500負担といはれたが、いずれにせよ他の業者など春節休暇明けで来週まで来やせぬしセカンドオピニオンもほしいところなので今晩の来宅をお願いする。ちなみに週明けなら月曜だが、その日は「日が悪い」さうで業者は火曜始業だ、と知己の工務店氏の話。暦を見てみると確かに月曜は「穿井」が「忌」とある。今日、夕方に降雨あり。小雨で傘をさすかさゝないか程度のお湿りだつたが何ヶ月ぶりのかしら。晩に待つてゐると来てくれたのは見るからに親切さうな親方。

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アタシがすでにシャワーの台座を外しただけでも親方に感心されたが水漏れがどこから?を確認するのに一旦、タオルで水を拭き取って、壁際に万年筆のインクをスポイトで垂らしたて見せたら、じわりと湧いてくる水に流れるインク(画像の下方の青い流れ)を見て親方にいたく感動される。施主と業者の関係は信頼あるのみ。親方曰く取り急ぎ壁のタイル壁を穿ち原因見つませう。取り敢へず、そこまでの見積りを頼み、帰りしなの親方に正月の祝儀渡す。暫くしてAmexの担当者より電話あり週明けの手配まで確認。

竹内好という問い

竹内好という問い

 

昨日から孫歌著『竹内好という問い』を読む。アタシにとつての竹内好は中学生のときに『阿Q正伝』を岩波文庫で読みんだとき訳者でその名を覚へた。高校では現国の若杉先生が魯迅についてよく語り放課後に喫茶店でまで魯迅について語つたのも懐かしいこと。たゞそのときに竹内好について迄の言及はなく(高校生には難すぎると思はれたか)大学の教養課程で荒木修先生が文学の講義で魯迅をテーマとして、荒木先生が魯迅の小説の一節をいくつも中国語で諳んじて聞かせる名調子にうっとりしてゐたが荒木先生が竹内好について魯迅研究ばかりか竹内の思想について語られ、それで『近代の超克』を読んでゐるが当時のアタシにはまだ竹内好は読みきれずにゐた(今もだが)。この孫歌先生の著作を読みながら書架から竹内好の、その『近代の超克』を取り出し頁を開いたら仙台の八重洲書房の栞が挟まれてゐた。

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孫歌はこの竹内好といふ理解するには非常に複雑な思想家を竹内の魯迅文学との出逢ひ、従軍、戦後の『近代の超克』まで実に見事に「竹内好とは何なのか?」を、この著書で紐解いてみせる。それでも著者自身が後書きで吐露してゐるが、竹内好が「中国の近代と日本の近代の差異を強調し、日本の優等生文化を激しく非難したとき、彼は日本にとっても東アジアにとってもなじみのない一つの原理を語っていた」とするが「竹内好がたゆまず求めた「抵抗」を媒介とする東アジアの「近代」は、「近代の超克」のような歴史的出来事を再認識し再整理する中にこそ存在するのではなかろうか」とし結果「竹内好とは何か?」は孫歌ほどの研究者にしても今後の課題と筆を置く。この著作は作者の博士論文(東京都立大)を元にしてをり、まさに「竹内好という問い」。この著作の中で多くの思想家についての論究も興味深いが殊に全体としてはあまり評価の置かれない「進歩的」な左翼思想家の中で鶴見俊輔は、その明快な民主主義や平和への熱意が好意的にと捉へられてゐることと、もう一つは廣松渉といふ難解な哲学者が1994年の朝日新聞での評論「東北アジアが歴史の主役に」で欧米中心の世界観が崩壊に向かう時代にあって(冷戦の崩壊後である……富柏村註)日中を基軸に「東亜」の新体制をうち立て、それによって世界の新秩序を形成しようとの構想を述べてをり孫歌は「彼が十数年前批判した京都学派の世界史の哲学と驚くほど相似している」もので、これは<近代の超克>との間に「論理上も感覚上も対立は存在しない」と、廣松渉をして、こんな無邪気な発想があつたとは今更ながら驚いた。

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政治的なニュースに不感症になつてゐるアタシだが、これには驚いた。タイ王国の王女が首相候補に、それもタクシン派とは。タイ王国の王女といへばアタシにとつてはシリントーン王女。

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国民の敬愛も深く父国王にとつては正直、この王女こそ後継だつただらうが、この方が首相に名乗りあげたら、まず当選間違ひないが王族の身份でタイの政治に関はるとは無理が大きい……と驚いたが、それはアタシの早合点で、今回の騒動の主は外国人との結婚で王族籍失つてゐるプミポン前国王の長女・ウボンラット王女。この方なら「これもあり」か。シリントーンさまは次女で現国王の妹で未だ王位継承者の一人。それにしてもタイ政治はいつ何が起きるかわからないから面白いが全てお釈迦様の掌上のことか。