農暦十二月十六日。快晴。母と銀座。長野T氏も上京されてゐて歌舞伎座横の文明堂であれこれ音楽話。
母と演舞場。楽屋入り口に黒色のアルファード止まり二人の付き人に「さぁ降りて」と促される坊やは成田屋の御曹司。
今春に小学校入学の幼子がかうして毎日付き人に連れられ楽屋入りで芝居の舞台に立つ。義経千本桜の鳥居前は獅童の忠信、廣松の静御前と友右衛門の義経。成田屋の播随長兵衛。妻お徳は孝太郎、水野十郎左兵衛は左團次。これに長兵衛の息子役で成田屋の坊っちゃん登場で客席が沸く。成田屋の長兵衛は見た目こそ凛々しいが長兵衛の覚悟と苦悩までは播磨屋のやうには表現できてをらず。母と昭和44年の勘三郎XVIIによる、この役の話などする。最後に海老蔵の〈傘売〉でお開き。大野屋で手拭ひ贖ふ。母が人形町の清壽軒のどら焼きを買はうかしら、と。もう夕方では売り切れか、いずれにせよ時間もあるので、と銀座線の三越前から江戸扇子の伊場仙を冷やかして千壽軒へ。今日は店売りはあとこの5つだけ、と。それをアタシらが買ふと次に来たお客にはもう「売り切れで」。
人形町には辻村ジュサブローのミュージアムあり寄つてみようか、となつたが、すでに廃業。日比谷線で銀座に戻る。買ひ物もないし夕食前でさすがにお茶を飲むのも若松で甘味でもない。ライオンでビール飲みませう、といふことになる。黒ビールに「あゝ美味しい」と母。傘寿だと思ふと母の元気がありがたい。八丁目の最近出来た評判の天ぷら屋へ。あつさりと美味いのだが肉厚の蟹の天ぷらに美味しいが生いくらを盛つたり牛肉フィレの天ぷら!にウニを乗せたりアタシにとつては奇妙なだけ。カウンターで目の前での盛り付けで先客への盛り付け見てゐたので一見の客が申し訳ないが奇妙なコラボは別に盛つてもらふ。奥麻布のバーHに独酌。
見事な十六夜の月を愛でる。