富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

金庸先生仙逝

農暦九月廿三日。ハロヰン。子どもらが何やらゾンビのやうな格好で登校。アタシがハロヰンの奇習を知つたのは確か中学生の時か英語の開隆堂の教科書でハロヰン扱つた話があり“Trick or Treat”だつたかお化けの仮装で菓子を強請つて近所の家々徘徊するといふ話に「なぜ英語を学ぶのにこんな奇習まで知らねばならぬのか」と、なんだかねぇ……気分。1990年代に米国でハロヰンに日本人留学生が銃殺された事件もあり。それがいつの間にかの国民的行事の大騒ぎで飲食店等も巻き込んでの商業化。少なくとも自分が子どもの時に変な仮装など強制されなかつたことだけでも幸はひ。LGBTなどマイノリティ差別に啓かれる時代ならハロヰンの騒ぎに乗らぬ自由もあるはずだが。連日の乾燥で喉をやられ口罩姿の輩少なからず。アタシも朝の混雑する地下鉄では口罩。須磨帆の蘋果日報金庸先生の訃報、大量の記事読んでゐたら九龍塘での乗り換へ気づかず太子まで行つてしまひ折り返し。中華文学で武侠小説を芸術の域にまで高め世界中の華人必読とまでした金庸(查良镛博士)仙逝。享年九十四。

浙江省に生まれ戦後の内戦期に上海で大公報の記者となり1948年に同紙の香港駐在となり若い時に新晩報紙に連載始めた武侠小説好評で記者と小説家の二足の草鞋。小説の印税収入で1959年に新聞・明報を発刊。金庸は元々は親共の立場であつたが中共では毛澤東の大躍進、文革での混乱の中、これに否定的で明報は香港に国府系と中共系の新聞乱立のなか中立の知識人受けする高級紙としての地位を確立。アタシは元々、武侠小説苦手で金庸の人気作品も何度か書店や図書館で手にはしたが読めず。だが金庸の物語は華人にとつて常識で、これに基づく逸話や喩へ等多く「金庸知らず」は少し恥ずかしい。金庸は日本でいへば松本清張池波正太郎司馬遼太郎を足して3で割つたやうな巨人。新聞社社主、小説家として成功し不動産なども手広く有する富豪。若い頃の親共の立場から文革での革命熱の喪失、そして金庸の小説愛読してゐたといふ鄧小平復活で再び親中の立場を取り天安門事件での悲痛、そして改めて現代化に挑む中共へのシンパシーと戦後の保守派知識人を絵に描いたやうな思想の変遷。鄧小平は中共では入手できぬ金庸の小説集を香港より取り寄せ愛読してゐたといふ。ちなみに国府台湾でも金庸武侠物は娯楽小説とはいへ義憤にて権力に争ふ筋立てにて戒厳令下で禁書扱ひだつたといふ。

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中共の成立から戦後、文革の悲劇までの時代は巴金、茅盾、老舍などの文壇巨擘が皆、辿った反省。金庸の小説の台詞を借りれば

生為國家,死為國家,平生具俠義風,功罪蓋棺猶未定;名滿天下,謗滿天下,亂世行春秋事,是非留待後人評。

陶傑兄の金庸追悼の辞:書劍蒼茫 - 陶傑 https://t.co/LKyvVRxwsz

查先生一生筆耕而勤業,也很勞累了。他還沒有說出來的故事太多,說不出來的淒酸更多。焚我殘軀,熊熊聖火,生亦何歡,死亦何苦。當年讀他的倚天屠龍記,見此頌歌,幾許有情人當曾怦然悲慟。然而他是學佛的人,如錢塘潮起,靈飈轉處,曾天涯漂泊的查先生想必也早參悟端詳。民國傳下來的參天一炬,他也終淡幻為一隻紙船上的燭光,在雲水迷茫處漸遠去了。

明報は1990年に香港に住み始めたアタシにとつても愛読紙であつたが1980年代末に金庸が引退表明し1991年に明報を于品海に売却。謎の若手実業家・于品海は叩けば出てくる埃も多く財界人としては失調で、明報もポスト金庸で今でも教育など明報ならではのジャンルはあるが低迷。金庸逝去は戦後の一つの時代の終焉。今日、新聞の大量の金庸追悼記事を読んでみると、さまざまな逸話もあり。明報の売却では日本の徳間書店金庸の日本語訳シリーズを刊行)も食し動かしたこと。金庸の子女といへば顔が金庸に瓜二つの息子・查傳倜がゐてグルメ評論家として頭角現し「八袋弟子」なるペンネームで雑誌等で人気博したがCD万引きで汚名晒し、この傳倜は次男で、金庸には傳俠といふ長男がゐたが19歳のときに留学先の米国で恋人とのいざこざ起因で自殺といふ。この傳俠は金庸の知性の遺伝か子どもの頃に三字經など諳んじる英才で金庸をして「早慧」と言はしめたさうな。……以上、金庸について拾遺。早晩にジムのトレッドミルで走り帰宅。ハヤシライスを飰す。

文壇は金庸逝去なら戦後の代表的赤色資本家・王光英も生涯を終へる。中共成立に共鳴し協力惜しまなかつた王光英は文革九死に一生を得て妹・王光美の夫たる劉少奇文革で犬死。王光英も鄧小平復活後には復た中国の経済現代化に尽力。

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