富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

電影〈十年〉

fookpaktsuen2015-12-28

農暦十一月十八日。曇。昼にハッピーバレーの寿司澄。早晩に油麻地のシネマティクで地味に評判のオムニバス映画〈十年〉見る。香港の1997年以降の政治情勢や世相の中で10年後の近い将来の憂ひを若い映画製作者らが1千万円にも満たぬ資金を集め5本のオムニバス作品を制作。第1話〈浮瓜〉(監督:郭臻)は地元選出の政治家出席の地域イベントで〈西環〉が黒社会と手を組み議員銃撃のテロ演出し情勢不安を根拠に国家安全条例施行といふ筋は一寸、ストレートすぎる。第2話〈冬蝉〉(監督:黃飛鵬)全5作のなかで最も抽象的。居住地が再開発でブルドーザーで潰され、その廃墟から様々な生活の記憶を拾ひ丹念に標本化して記憶の維持を……といふ筋だが途中で寝てしまふ。第3話〈方言〉(監督:歐文傑)政府は普通話普及に懸命でタクシーは普通話試験に合格しないと空港や主要な地点での客待ち不可の時代(これはかつてタクシー運転許可に英語必須だつた英国統治時代のモチーフ)、普通話のできぬタクシー運転手、息子は学校で普通話に馴染み親子ながら悲哀すら感じる。第4話〈自焚者〉(監督:周冠威)香港の英国総領事館前で焼死自殺した市民が誰か?その10年後に国家安全条例立法化され本土派の若者らがそれに抗する状況を識者らのインタビューも交へたドキュメンタリーの形でまとめるが意外な結末。第5話〈本地蛋〉(監督:伍嘉良)団地で鶏卵や缶詰、飲料など売る小さな士多(ストア)の主人公は知己の養鶏場の閉鎖知らされ本地(地元)産の鶏卵の供給は今日が最後と告げられる。小学生の息子は学校の軍服を着せた教練で、それも気になる。ある日、この士多に紅衛兵のやうな少年たちが現れ店の商品チェク始める。こんな店で何が法に触れるのか?と疑ふ店主。隊長らしき憎たらしい子どもが「本地」は政治的に使つていけない言葉だと指摘。「本土」は香港独立派的ニュアンスのため政治的タブーらしい。ただの鶏卵、なぜ香港でとれたものを本土卵と呼んでいけないのか。これを香港卵といへばどうなのだ?と質すと、それは問題ないといふ。同じ卵でも本土卵はダメで香港卵は良い、その矛盾を子ども相手に抗議する大人の姿。この話も意外な展開あり。……以上、ネタバレ的に書いてしまつたが、いずれの作品も意外な展開に練られた脚本。当初、劇場公開は難しく大学や民主派団体介しての自主上映のつもりが秋のアジア映画祭に出品したところ好評で今回シネマティクで上映となつたら地味に集客が高まりプライム時間や週末の終日の上映は爆満と評判に。香港の殊に若い世代の不安。シネマティクといへば映画の前後に映画施設隣の夏銘記で腹を満たしてゐたが数ヶ月前に閉業。佐敦まで歩き久々に正宗亞龍咖喱。咖喱牛腩飯がHK$72とは高くなつた。因みに隣の亞龍巴基斯坦咖喱の方だとHK$59だが個人的には「正宗」方が好み。
【好戲派】記那一個《十年》香港崩壞預言書 蘋果日報 2015年12月26日 こちら
狂想我城末路電影場場爆滿 《十年》導演盼改變港未來 2015年12月28日 こちら
香港は中共国府に代はり国連入りし常任理事国となつた翌1972年に、すでに中共からの要望で国連の「非自治地域」のリストから香港を外す提議あり、これが認められ香港は所謂「植民地」扱ひとされず主権国は中国であること確認された形で、この時点で英国が香港統治権手放した場合でも「独立」は困難に。
▼風知草「なぜ、しゃべるのか」山田孝男毎日新聞)「右」がウケる時代。思想は自由、言論は多様でありたいがネットウヨ的な雄弁蔓延り「右傾化する日本」を必要以上に見せてゐるのではないか、と。山田孝男は政府の歴史認識に関する懇談会に参加してゐるがマスコミで書かれるほど偏つてをらず発言も憚られるものではななかつた、と。孝男さんは清水幾太郎の転向にあたつての保守たる福田恆存の強烈な非難を批判の手本と紹介する。中韓への、その逆の批判も激しいが「問うべきは、なぜ、過激な発信に走るのか」と。御意。
▼中国で反テロ法を国=全人代常委が採択。テロ対策と称して電話やネットのプロバイダに対する監視や規制強化。通信内容の傍受可能にする装置の設置や暗号情報の提供等。中共の横暴と非難は易いが、かうした監視は欧米で実は公然の秘密で行われてゐるか、やとうと思へばやれる環境にあること。さう思へば、これを立法化しただけ中共はマシか(嗤)。だが、この反テロ法に「テロ活動の詳細を報じることの禁止」まで盛り込んだのが中共の白眉。テロ活動は報道するな、が国内のイスラムチベットを念頭に置いたやうで実は国家による暴力行為のことだったりして「報道するな」かw……そのうち日本語でもこんなこと書いてゐるだけでダメな世の中到来なのかしら。

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