富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農暦九月十九日。天気予報は雨、だが朝、ほんのすこしのにわか雨で晴天。今日は日本からお見えの高名なる建築家ご夫妻、香港大学に短期滞在中の日本の某国立大学大学院建築学の教授を香港の日系大手デベロッパーのS氏がご案内するツアーに家人ともども呼んで頂き末席汚す。旺角のホテルから小型バスで奥運、南昌を抜けるが二十年前は海だつた一帯を埋め立てビルが立ち並び都市化は驚かないが街路や公園に鬱蒼と樹木茂つてゐるのが本当に南洋の風土。沙田を抜け中文大学海側のサイエンスパークを抜け「こんな辺鄙な場所に」といふエリアだが海沿ひに高級マンション並ぶ。見学先は天賦海湾(Provident Bay)で外観設計はフォスター卿。湾岸沿ひの白壁は美しく映えるが何といつたか素材の材質が水垢で汚れ目立ちお粗末。低層マンションの真ん中に普通ならプールやクラブハウスなど共有エリアだが(ローマ風wのそれもあるのだが)そこに独立式の家屋並びどの棟からも見下ろされるどころか各戸の庭にプールまであるが庭から室内まで見透かされるプライバシーゼロの設計が不思議。普通なら独立戸はプライバシー確保できる海沿ひか高台なら眺望のいゝ崖沿ひのはず。いずれにせよクラブハウスはフォスター卿とは一切関係のない地元設計で独立戸棟もどこまでフォスター卿の意向反映されてゐるのかはわからないし内装も当然「えっ、これが数億円?」なのである。 続いて吐露湾を渡り馬鞍山から烏渓沙に入り落禾沙に出来たThe Double Coveといふマンションへ。こちらはリチャード=ロジャース卿の外観設計。香港では珍しく烏色?の黒い外壁にバルコニーはオレンジのフレームがアクセントで、これは美しい。MTRは烏渓沙站から歩道橋で直結だが市街化調整区域で通常の集合住宅開発は不可、そこでデベロッパーが何を言ひ訳にしたか、といへば「自然の中にある高層住宅」とこの敷地の先にある岬への市民の通行ができる公共通路の敷地内での建設。前者はコンセプトはわかるしロジャース卿のデッサンでは確かにそんな空間なのだが実際には倍以上のビルが屏風状に並んでゐるし、後者は香港の集合住宅建築で「公営団地ビルとの共生」の次に忌み嫌はれる事象、マンション群の中の緑化地帯で「庶民通路」はできる限り目立たぬやうに住民もMTR站に行かない限りは通らなくてもいゝやうに、これだけは上手く設計したわ、と感心。でマンションの新築の最上階にある2千sqf以上のペントハウスや4寝室もある大型の物件に案内して貰つたのだが最上階の部屋からは確かに吐露湾一望で遠く八仙嶺から西貢の山々まで見渡せるのは素晴らしい、だが視線を屏風状に並ぶマンション群に転じると隣接のマンションの居間から寝室まで丸見え、すでに居住してゐるフラットの寝室はカーテン閉めっぱなし、浴室もバスタブは確かに海望だが湯船に浸かると向かひ側の風呂場丸見え、これぢゃ露出狂以外は風呂にも入れない。内装の模様替へなら独力で出来るが根本的にかういふ問題は解決できぬ。ロジャース卿の最初のコンセプトデザインでは、少なくとも隣の建物はこんな至近距離ではないし浴室をどの位置にどの方角にするか、までは高尚なる先生のお仕事ではない。結局のところ専門家に聞いて成る程と思つたが「香港の住宅品質はマーケット優先できたため決して価格に見合ってない」といふこと。これなら烏渓沙の昔からの村にある低層住宅のほうがよっぽどマシと思へてしまふ。まぁ日本円で7億円の資金もないので高級マンションの質に憂慮する必要もないのだが。
周囲の環境は素晴らしい。ロジャース卿のドローイングも。
それがこんな感じに。
西貢で遅めの昼食。全記海鮮と決めて予約してゐたが全記も何軒もあり予約した店は一番賑はつてゐるがゴチャゴチャでいつも避ける店で7名の予約にテーブルも確保されてゐなかつたので海傍街53號の分店へ。こちらの方が客も少なくゆったり。天気よく気分はニースで地中海。 少しのビールに酔ひ睡魔に襲はれバスで一睡の内に尖東。Hotel Iconで目覚めのコーヒー。此処もRocco Yimよるもので西陽が上手い具合に入りロビーは美しい。歩道橋から理工大学へ。今日の最後の見学は同大学にあるイノベーションセンターでザハ=ハディドの設計。外観は彼女らしく革新的でインパクト大だが中は使ひづらさう、といふか歩くだけでも使ひづらい。窓の掃除は大変。外窓どころか吹き抜け部分の窓の汚れが悲しい。晩は天后の甘飯館。 晩餐は18時か20時半のいずれか、といはれ18時選ぶ。最初は焼鵝でChâteauneuf-du-PapeのLa Nerthe 2010年。このメインディッシュが済んだあと揚げ豆腐と海老はDog Pointのシャルドネ。最後にやはり焼鵝瀬粉を皆さんにご賞味頂きたく。それと炒飯。Ode To Lorraineのシラーズ&メルロー。我ながらチョイスが悪くない。家人は夕食前に失礼したので6名で完食完飲。普段、刺激や創造のない日々で今日は建築の専門家の、それも名だたる先生方にご一緒させて頂き話も拝聴に値することばかりでありがたし。皆さんと別れ帰宅するはずが、ふと銅羅湾に戻りバーS。先日この店でも何度も会つてゐたFさん逝去され独りで献杯したく……。彼女は香港でQuarry Bay Schoolに在籍してゐて、今はこの小学校はBraemar HillにあるのだがQuarry BayのKing’s Rd沿ひの高台にあつて私が香港に住みだした頃には少年保護施設になつてゐて高い壁に囲まれ入れなかつたが閉鎖で荒れ果て今は修繕して青少年発展連会徳育発展センターなんてどーでもいゝ愛国教育推進施設だが「もう、みんなどうしてQuarry Bay SchoolがQuarry Bay Schoolなのか知らないんだから、私はあの階段を毎日歩いて上り下りしたんだから」と教へてくれたのはFさん。バイオリンの先生をしてゐた彼女に献杯
▼この一ヶ月、日経の「私の履歴書」で晋三お友だち葛西敬之氏の連載興味深く読んだが今日が最終回。「東海道新幹線の安全・安定性が確保」「JR東海高速鉄道システムの技術とノウハウを提供し運行・保守の指導を担う」「米国のダラス―ヒューストン間(約400km)においては東海道新幹線N700系の導入が検討されている」と、いくらJR東海の会長までなつた御仁とはいへ、あの国鉄分割民営化を実務の中心で実現した立場で最後まで国鉄マンとして日本全国の鉄道網に対する自信や責任とかないものか連載最後の文章が「東海、東海」と、やはり民営化もだが分割で結局のところドル箱で主力の東海道新幹線なのだらう、この人にとつては。
▼日経で「あれ、この人相の悪いオッサン誰やつたかいな?」と思つたら沖縄の仲井真前知事。

  • 尖閣諸島など安全保障環境を考えれば前に進めないといけない。安全保障の問題を最終的に決めるのは政府だ。
  • ただ反対するのは市民運動ですよ。知事が市民運動のリーダーシップをとるのは行政の責任を放棄したのと同じ。政府とどこかで折り合うつもりがあるなら別だが、ないとすればどこまでいっても何のプラスもない。

といふ発言は確かにさういふ面もある、と思ふが「安倍晋三首相や菅義偉官房長官のような能力のある人がそろっている時じゃないとなかなか進まない」と最大級のヨイショはさすが。このインタビューも沖縄ではなく「宛てがはれた」といはれる首都圏のご自宅で、なのかしら。