富柏村香港日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴る日剩でござゐます

アゴタ=クリストフ『悪童日記』

fookpaktsuen2015-10-24

農暦九月十二日。霜降。気温は連日摂氏30度まで上がるが朝夕は23度くらゐで涼しいと思ふくらゐ身体が地球高温化に慣れてゐる。朝六時半からのラウンジでの朝食に七時前に行つたら口開けの客。このホテルのWi-Fi中共にしては比較的自由にFacebookTwitterもつながるし客室のWi-Fiも6Mbpsくらゐで中共だと思へば十分な速さ。ラウンジにはNY TimesやSCMPなど置かれモニタはCNNのニュースが映つてゐる。史上最大のハリケーン墨西哥を襲ふ。だが遉がにGoogleの検索は使へない。このインターコンチの経営はOCT=華僑城で1982年に深圳湾酒店を開業。まだ深圳湾の埋め立て前でほぼ湾岸に近かつた。当時では中国でも画期的な大型娯楽施設に隣接の観光ホテル。それがスペイン風?のリゾートホテルとして大改修され2006年にインターコンチ系列に。滞在二日目となるが、どうしてもこのホテルの情熱的な視覚印象とあちこちにある牛のオブジェやデザインに慣れぬ。午前、ジムのトレッドミルで走る。走りながらモニタでNHKの医療関係テーマにした土曜ドラマ眺める。昼前に外出。華僑城抜けて久々にOCT Loftへ。高文安の設計スタジオに属した麺館 My noodleに拉麺飰す。本当に「即拉即下窩」の麺のコシは見事。もう注目も山を超へ少しは寂れてゐるか、と思つたが元々のエリア(南区)に対して北区の開発目覚ましく周末客も少なからず。共産主義での国営工場の廃墟が芸術空間になるのは深圳に限らず北京、広州などにもあり。此処もとても快適さうな創造的環境だが一つだけ条件は非政治的=党中央政府批判せぬこと。それに従ふことで与へられる環境。かといつて自由謳歌する香港や東京にかうしたアート空間があるかといふと、あつたにしてもやつてゐることは同じで21世紀に環境工学と政治はあまり直接の関係はないらしい。ホテルに戻る途中、中国文化村の入り口で観光モノレールがちょうど到着したところなので慌てゝプラットフォームに駆け上がり50元!も払つて初めて乗車。このモノレールは中国文化村から華僑城の新都市を抜け、空中から見るとまるでジャック=タチ監督的な鳥瞰でも未来都市、そこから歓楽谷遊園地の傍らを抜け世界之窗遊園地を抜け、本来なら園内眺められたのが(乗つたのは初めてだが園内から見上げたことあり)樹木鬱蒼で園内は僅かに、それも円の隅っこの丘の上にある法隆寺のミニチュアが垣間見られモノレールのアナウンスは日本庭園紹介、そのあとジャングルのやうな森林眺めると中国民俗村の、それも参観者には見えない裏の従業員用道路で疲れた少数民族衣装の踊り手が歩いてゐたり舞台裏眺め出発に戻ると35分もかかつたことに。元々は3つの娯楽施設回るため園内にも站が設けられたし、華僑城と奥の住宅地結ぶ交通手段でもあつたやうだが園内と華僑城の站は閉鎖され、今では専ら一周だけしてお終ひな客のアトラクションと化してゐる。华·美术馆OCTでは松永真「半径3m」といふ展覧あり。午睡。バルコニーに出ると中国文化村のアトラクションの音声が森の中から聞こゑ眼下のプールサイドでは結婚披露宴で賑やか。こんなホテルで豪勢に披露宴は訒小平に感謝か。そんな騒がしさのなかバルコニーのソファでアゴタ=クリストフ『悪童日記』読了。ラウンジで日記書きハッピーアワー。三鞭酒かはりの発泡酒が甘く今ひとつだが、ふとレモン一切れと氷入れてみたら、けっこうイケる。これを三倍。今晩はさすがに外で食事と思ひ家人選んだのが南山にある新疆料理屋。地下鉄で桃園。南山は蛇口のすぐ北だが蛇口の住人が「南山かなりきれいで活気ある」といふくらゐだから蛇口とて中国では十分に生活は快適だらうが、どれ程のものか、初めて訪れる。周末の夜は飲食店並ぶ繁華街にはかなりの人出。南山大道下る。植物医生(Dr Plant)とか簡約酒吧(The Very Pub)とか面白い店名いくつか。前者は植物人間想像するし後者は英語名が笑へる。鏐威川菜といふ盛況な四川料理など活気あり。巴依老爺新疆食府。羊と鶏軟骨の串焼き、揚げた羊肉喰らひ酸辣粉。地下鉄でホテルに戻りバーで飲み物無料券あつたのでロビーのバーに入る。受付嬢に紅茶かコーヒーか?と執拗に聞かれ地場啤酒はハウスワインが飲めると書いてあるだろ、と言ふとバーは輸入ビールはあるが紅茶か珈琲なら、とバー手前のカフェに誘なはうとする。なぜ啤酒飲むのをさうも断はらうとするのか?たしかに土曜晩の九時過ぎでバーも盛況、無料客の相手したくないのがバーで空いてゐるテーブルにつくと暫くして階下の遅くまでやつてゐるビュッフェ形式のカフェレストランから生ビール持つてきて黙つて供され啤酒の銘柄すらわからず。これはクレームもんだろ。十二夜の月を愛でる。晩に母から電話あり国立劇場梅玉の伊勢音頭で築地H君に挨拶されたといふ。開演前のロビーで今どき風の二人の男性も芝居見物なのね、と思つて見かけたのがH君父子だつた、と母。梅玉も頑張つてゐるが母にとつては孝夫の伊勢音頭こそ印象が強すぎる。
アゴタ=クリストフの『悪童日記』が和訳され90年代とても話題になつてゐたが読む機会逸し前回の香港映画祭だつたか、これが映画になり映画も興味あつたが先ずは原作読むべき、と思ひ早川の文庫本は随分前に入手してゐたが今回やつと読む。面白い。62の一つずつそれぞれの章が見事な短編。何かしら痛烈に考へさせられることを突きつけられる感あり。これはないだろ、といふ外道な、非条理なトピックス並ぶと普通なら食傷気味になりさうだが悪事も見事な才覚や狡賢さも一つ一つが面白く少年少女の性的虐待も何処か通過儀礼的に映るから。ハンガリー出身の作家が母語ではないフランス語で、しかも少年たちの独学の綴り方のモードでといふ複雑で単調なécritureを堀茂樹が見事に和訳。彼がパリの本屋で偶然手にしたこの本を下宿するアパルトマンで貪り読んだ、その気持ちがよくわかる。できれば原作で読んでみたい一冊。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)