富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

成瀬巳喜男「流れる」

fookpaktsuen2015-05-10

農暦三月廿二日。四月は耶蘇の祝日もあつたのにちゃんと休日は二日のみ、で今月初めて仕事休み。Z嬢と中環埠頭。横浜から生駒T家来港中。待合はせランタオ島へ。小雨。梅窩で5才になるR君に砂遊び用に玩具のスコップとシャボン玉買つてやる。タクシーで下長沙湾の浜辺。Stoepに飰す。砂浜沿ひから集落の奥に移転。昼前から葡萄酒の杯を傾ける。気分はロゼ、でKanonkop Kadette Pinotage 2014年。Geoff Merrill Pimpala Road Shiraz 2012年。波打ち際で砂遊び。午睡。路線バスで東涌。MTRで市街に戻る。T家九龍站で下車し尖沙咀へかつて夫妻馴染みの韓国料理屋で晩飯だといふ。一旦帰宅して晩七時に湾仔の芸術中心。成瀬巳喜男監督の『流れる』を見る。もう三十年も見たいと思つてゐた映画を香港で見るとは。昭和三十年の東京は大川端の花街。柳橋。当時の柳橋の有様が映像に残つてゐるだけでも貴重なフィルム。つたの屋いふ置屋。女将が五十鈴。そこに雇はれる新しい女中が絹代。幕開けでこの置屋の女性たちが次から次へと現れ「お母さん」「あら、お姉さん」が家族なのか芸者の上下なのかがわからないのが可笑しい。女将の実娘が秀子、若手のモダンな別嬪芸者が茉莉子、姉芸者に春子……とまぁ当時の花形女優オンパレード。更につたの屋も今では落剥ぶりが目に映るが女将が借金する鬼子母神の実姉が賀原夏子柳橋で隆盛極める料理屋の女将に栗島すみ子である。これだけの女優揃へ采配振るふ成瀬監督は当時半百。三十も五を過ぎればバヾアの世界、と一線を退いた年増芸者の風格たっぷりでベルちゃん当時まだ四旬。花街で見た目も内心も最も美しいのが女中といふのが何とも興味深いが美貌の絹代に「もう四十五ですから」といはせるだけでも一大事。幸田文の原作読んでゐるZ嬢の話では、この女中は原作ではもつと様々な家を渡り歩く厭世観といふか太々しさもあり、といふ。戦後映画史に残る名作は、どのシーンも印象的だが何といつても一波乱越へ(それでもまだつたの屋には不穏さ失せぬのだが)心機一転で五十鈴と春子の向かひあつての三味線の共演は怖いほど芸者の意地っぱり映す。永華麺家に撈麺を飰す。食べたいのは葱薑撈麺なのだが前回も何だつたか別で、今回も時菜撈麺供される。本当に不正確なアタシの広東語。帰宅すると大雨、雷。