二月十四日(火)午後から小雨。聖ヴァレンタイン日。今更この日の異教徒らの祝祭に何を語ろう哉。物言えば唇寒し。ヴァレンタインの日に相手にもされぬ老人の僻みととられるばかり。早晩に雨は本降り。何カ月ぶりだろう。バンコクのY氏来港で3月に帰国する岡山出身で香港ではMadame de Jordanと呼ばれていた(って佐敦在住の奥様の意)E嬢も誘い、それにO君とZ嬢でハッピーバレーの益新美食館(この美食館という名前は嫌い。昔の益新飯店がよかった)に食す。昨年八月初旬に久が原のT君とお連れのK君と一緒して実に半年ぶりの益新。聖ヴァレンタインでZ嬢の話では銅鑼湾など花束もった女性と男性のカップルがうじゃうじゃしており三越裏の高級回転寿司店など長蛇の列だそうな。異教徒の若者らが聖ヴァレンタイン祝し花束をもって高級開店寿司に並び寿司を食すとは奇習なり。で益新も昼に予約してもう晩は満席か?と思ったが幸いに卓あり。この店は「檸檬鶏」が有名であるがこれは絶対に「砂糖ひかえめ」で注文するとよい。あっさりと美味い料理に紹興酒さらっと2本。笑話尽きず。岡山では(とE嬢の岡山在住のお母上がこの日剰読まれているそうであまり余計なことは書けぬが)岡山ではPomacea Canaliculata(lamarck) が大流行で、と聞くと一瞬、なんか凄いオシャレが大流行みたい。でE嬢がこれは日本中で流行しているのだろうか?という話を提示し、こののポマチェーア・カナリキュラータ、はスクミリンゴガイで「ジャンボタニシ」と言ってしまえばそれまでだが、田圃の用水路などに生息し稲作に大きな害与えるそうで問題は深刻。その明太子みたいなピンク色の卵が気持ち悪い〜そうでこちら。その確かにちょっとグロな、でも見方によっては草間彌生っぽい卵を潰すと赤い液体が出て水が赤く濁るそうで……でその田圃で収穫された米稲はみんなお赤飯になる、とか。嘘。
▼朝日新聞の国際面に中国の杭州にて天使姿の若い女性が街頭でカップルにバレンタインデーのカード配る写真あり(AP配給)。ちょっとしたことなのだが朝日新聞はキャプションで「西洋の伝統、味わって」と題して「中国東部の杭州で12日、バレンタインデーを前にして、カップルにカードを配る天使姿の女性たち。ライフスタイルが多様化し、西洋の伝統も受け入れられるようになっている」と。「ライフスタイルが多様化し、西洋の伝統も受け入れられるようになっている」とはずいぶん仰々しい。実際には、文革の頃ならまだしも、クリスマスだの太陽暦の大晦日のカウントダウンなどずいぶん前から「ライフスタイルが多様化し、西洋の伝統も受け入れられるようになっている」のであって、今更バレンタインデーだから、ということでもない気がしたが。同じ写真を蘋果日報は「西の風が東を漸す。近年、内地の若者の間では西洋の「節日」が大流行。中国伝統の元宵節(旧暦の1月15日)のこの日(2月12日)も天使姿の女性たちが街頭に出てカップルにバレンタインデーのカードを配った」とキャプションで紹介。こちらのほうが自然な文章に読める。ところで聖ヴァレンタインといえば香港の陳日君司教について日剰で先日「枢機卿」と間違って綴り訂正したがヴァチカンにて枢機卿に任命される見込みと昨日、報道あり。数年前にまだ前任の人徳厚き胡振中枢機卿存命のおり確か当時は助理主教であった陳日君氏はキリスト教の教区幹部とは思えぬ飄々とした風情で旺角の街中で信者と立ち話などして地下鉄に乗っていく様に好感ももてたがここ5年ほどの歯に衣着せぬ言動は凄まじきものあり。最初の目立つ反中央政府な言論は5年前だったか中央政府の香港出先機関である中弁聯がカソリック香港教区に対して中国での殉教者の聖人化に「低調に扱うべき」と口を挟んだのが発端で(共産主義下での殉教少なからず)それに抗議、01年には香港市民を親に持つ大陸生まれの、香港の永住権なき児童について政府が香港での滞在で小中学校への通学認めぬ裁定に抗議しカソリック系小中学校で受入れ、このへん迄はキリスト者の人道感だけに思われたが03年の基本法23条立法ではカソリック信者に71デモへの参加強く求めその後は普通選挙実施推進だの香港の民主化運動の象徴の一人の如く映る。但し昨年末のWTO閣僚会議では会議最終日のデモ騒動の終結後に現場にさっと現れ数分間だけ韓国人抗議家らを見舞い抗議活動に対峙した香港警察、機動隊の抗議者鎮圧を「香港の恥」と罵倒。これに対してはカソリック信者の警官や市民から陳主教に対して「言い過ぎ」と抗議の声もあがり劉健威さんも信報の随筆で陳主教を批判。同感。その陳主教がヴァチカンで枢機卿に任命されるわけで中国政府がこれをどうとるか。ちなみに中国には枢機卿はこれまで民国期に田耕?、台湾に渡った民国に于斌、中共成立後に1955年から獄中にあり60年に終身刑となったまま79年にヴァチカンから枢機卿に任命された?品梅(88年に釈放され病気治療ということで渡米し客死)、前述した香港の胡振中、現職には台湾に單國璽がおり、陳日君は六人目。
▼朝日新聞に久々にはっきりと骨のある論説記事あり。根元清樹編集委員による「靖国問題の迷路「心の自由」ですむのなら」。リリー=フランキーの文章を引用して子どもでもわかる、しっくりいかない「そんな間柄でもどうにかやっていかなければいけないのよ、というオトナの優しさと愛情」から話を始め辻元清美が小泉三世に質した「心の問題」に話を引き、小泉三世は心の問題を大切、と言うが、内面の問題に深入りしないという政治の作法は「人類の多年にわたる努力の成果」(憲法97条)であり、日本の政治が尚もその流儀に疎いこと指摘。憲法や教育基本法の改正論議で国民の「心」の中に国家が踏み込もうという主張が根強いこと。菅直人の言葉だそうだが、病気や貧困といった不幸の原因は政治の力で相当程度取り除けるが「幸福は精神的なものに支えられていることが多く「権力が関与すべきではない」こと。従って政治の目標は「最小不幸社会」の実現に留まるべきで心にかかわる「価値の実現」からは手を引くべきであること。小泉劇場が心の問題の迷路を舞台に残したまま幕を閉じようとしているなかで、この菅直人の言った言葉の意義が増している、と。