富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月初三日(水)快晴。晩に佐々淳行先生の後援会、元へ、講演会あり。題して「アジアにおける危機管理を考える〜仕事と暮らしのためのノウハウ」と。競馬も今晩は珍しく沙田にて、拝聴に参れば、かなり知人も多し。で講演は噴飯モノ。田舎代議士の政局報告会の如し。佐々氏香港暴動の頃に香港総領事館警察庁の駐在官として滞在し当時の三千人だかの邦人保護にあたり(それほど邦人が危機的状況だったのか)、浅間山荘事件では警備幕僚長、初代安全保障室長で引退するが時代はテロ、佐々氏はテロ危機管理評論家として脚光浴び『諸君』などタカ派の論客。このご時世で今太閤。というわけで講演も予想つくが、とにかく原稿どころかメモもなく、まぁ話はあちこちに飛ぶわ飛ぶわの脱線ばかり。その上、香港時代に日本人学校開校にも携われと言われ警察出身の佐々氏は文部省ももともと内務省なのだから、と説得された時に「文部省がもともと内務省だったなんて言ったら森有礼の幽霊が出ますよ」というギャグも田舎の市民大学ならウケようが香港では水を打ったような静けさ。何かにつけ僕が僕が、で北朝鮮の拉致者の問題も僕が安倍晋三通して福田官房長官に橋渡しだの、紐育のジュリアー二市長の治安改善も僕が、だの、とにかく僕が僕が、で、これでは香港での講演会では観衆とて田舎のオジチャンオバチャンではなくかりにも大手企業のずらりと並ぶ駐在員ばかり。それ相手にこれぢゃ。具体的な危機管理の話など、エレベータブリーフィングと呼ばれる、何か突発的なこと起きた時にトップに対してエレベータの中で事実、状況、助言を的確に述べる業だの、3分でブリーフィングできることの大切さ、だの、トップは15分で決断し1時間以内に人員を動かすだけの力量と組織力が大切といった、たったそれくらいの技術論は拝聴に値するが所詮ハウツー。帰国してすぐ『諸君』で石原慎太郎と対談、続いてフジテレビの報道21で外交官のイラクでの殺害について話さなければ、と先生、本当にお忙しい。イラクでの外交官殺害といえば、佐々先生、武器ももたない外交官がNGOの会合に参加に向かった途中……とおしゃっていたがあのお二人の外交官が向かった会合はNGOぢゃなくてCPA。全然違う。CPAも恐らく佐々先生にとっては国際平和のための多国間活動でNGOなのかも(笑)。罵声浴びせる相手も停まらず警視庁時代に邪魔だった美濃部都知事、神戸の地震で危機管理できなかった村山首相は嫌うの当然として、自民党でも宮沢、河野洋平加藤紘一野中広務といったリベラルは大嫌いらしく親中、親北朝鮮と罵り、具体的に名前は挙げなかったが外務省でも現中国大使の阿南君、シンガポール大使に飛ばされた元アジア局長槇田君などボロクソ。官僚出身なのだからもっと冷静に分析していただきたいが、たんにタカ派は身内でリベラルは非難という余りに短絡的な発想で延々同じ話続く。戦後の日本は治安、国防、外交を等閑にして経済成長ばかり続けた結果が今日の治安は悪く自らの国も守れず軟弱なる外交の様で、それがここ数年9-11から世の中は変わってきて、選挙でも拉致問題を語った者が当選するのは国民の関心が治安、国防、外交にようやく目が向いてきたからだそうな。当然のことながら改憲も多くの国民が支持し、こうして日本は正常な国家になりつつある、と佐々先生。その萌芽は若い世代にも見えて、今の若者は茶髪だの顔黒だのよくわからぬが、幸い、日教組だのの教育の悪い影響を受けていないから、けっこう立派で、例えば、浅利慶太劇団四季の「異国の丘」を涙ながらに見ている女の子や、映画になった浅間山荘が若い世代に好評だったと、そういった若い世代が真剣に社会のあるべき姿を見ている、と。大学紛争や左翼活動の若い世代はダメだが浅利慶太の芝居と浅間山荘なら評価、って簡単なのだなぁ、世の中は。結局、肝心な「アジアにおける」の話は殆どなく、強いていえば香港暴動の時代、三千人の邦人保護を日本政府はいざとなれば米軍による救出に海路を見出そうとして、それが現実的に無理だと思った若干三十余歳の佐々氏は当時の首相佐藤エーチャンに直訴したらエーチャンは絶対誰にも言うな、として憲法に触れようが首相は政治生命かけて海上自衛隊派遣し邦人保護にあたる、と宣ったそうな。だが時代は変わり日本の正常の危機管理に向いてきたので、佐々先生曰く危機が訪れれば間違いなく日本政府は海上自衛隊の艦船でもって邦人保護に参ります、と。佐々先生つい口が滑って「われわれの常識は国民の皆さんに知られていないからお教えしますが」とまで饒舌、だが聴衆は山口だの大分の田舎の、自民党の代議士の講演会で招集かかったオッチャンたちでなく商社だの金融で国際経済の第一線にいる輩、佐々先生のこの時局講談で「国民のみなさんは知らない」はあるまひに。で、最後は危機管理は自助、互助、公助の三つが揃ってこその危機管理、また香港も三万人の日本人が一致団結して組織を作り人間関係の強化、ゲマインシャフトの形成をしておくことが危機管理、と結ぶ。実は、戦争と革命が国家にとって最も危機管理の対象であった二十世紀が終り世の中はこれまでにない危機管理が求められているそうだが、実は危機、危機といいつつこの時代を最も謳歌されているのは危機管理が専門の先生たち。そしてどんな危機管理が最も大切かといえば、危険な場所に行かぬことで、そういう意味では香港に駐在すれば香港暴動、サイゴンにわずか一泊すればテト攻略、そして警察庁浅間山荘、安全対策室長で湾岸戦争、引退して危機評論家となればテロの時代と行く先々必ず大きな事件起きるという点では佐々先生に近づかぬことが最も安全対策かも(笑)。二時間に及ぶ堂々巡りの講演終り質疑応答となったが冷房にすっかり身体も冷え隣席にいらっしゃったU女史と早々に会場出て温かいものが食べたいと最近出来たそうな拉麺屋ばかり揃った香港拉麺横丁なる店訪れるがどの店も行列できる混雑でゆっくり佐々談義できる雰囲気もなくU女史の提案で灣仔の卯佐木。熱燗で暖をとり佐々談義。Z嬢は北京出身の「ホロヴィッツ最後のお弟子」ということが売り文句のピアニストの演奏会に参るがショパンなどはまだ聴けるがリストの匈牙利狂想曲だのテンポの速いパッセージの大きな曲になると粗が目立ち、しかも実際に売れた席は少なくかなり質の悪い若者の動員があり、演奏会として最悪だったそうな。動員して下品な客多く携帯ピーピーで演奏させるより真に聴きたい少数の客のほうがまだマシぢゃかなろうか。夕方わずか十五分ほど競馬新聞眺め買った馬券で2Rの単勝は6倍だが3Rで単勝が14倍、連複も19倍とこの2レースで他3レース外してもそこそこ儲けるが儲かっても粗い予想でレースの見ておらぬのでは楽しくもなし。
▼林行止氏が信報の専欄にて香港大学日本研究学系の学者らが書いた書籍『松下電器の電気釜から〜蒙民偉と新興グループがたどった道』について述べる。蒙民偉氏といえば戦後、松下幸之助氏のもとを何のコネもなく訪れ(これはどうやら虚実らしくそれなりのコネあり)直談判でナショナルの香港での販売権取得、戦後の香港で自らナショナル牌の電気釜かつぎ団地まわって飯炊き実演しつつ電気釜の普及に成功、松下産品の東南アジア、中国での販売で大成功し香港でも有数の財閥となった御仁。松下幸之助との信頼は当時から販売についての契約書なるもの存在せず信頼でのみ今日に至る、という美談あり。じつは問題もあり蒙氏が香港中国でのPanasonic登録商標権有し松下電器自身がその自社名称当地で使えぬ矛盾、蒙氏健在のうちは松下側も手出しできぬ膠着。で、この書籍、蒙氏起業より半世紀記念に合わせて上梓されるが、林行止氏は内容につき手厳しく、いわゆる伝記物にて装丁から内容まで通俗読み物の類、とにべもなし。殊に筆者の一人である、かつてヤオハンケーススタディに日本企業の経営、社会論得意とするW博士について、蒙氏の起業、経営を中国家族企業の典型と見て取材などは多いがその分析に足りぬ点あり今後の更なる研究成果を、とした上で、更にW博士が中国的家族経営を保守的で欠陥あるものと前提にしていることに対して林氏曰く全ての企業が何らかの形で家族経営などから起業しており個人経営が利潤と相まって何処で法人化されるかが企業分析の興味深き点であり、べつに家族経営が保守的で欠陥があるゆえそれから進化するものでない点を指摘。余はどうも、この日本研究といった地域研究よくわからず。たんなる語学研修が学問とされる不思議(これは言語学に非ず)。文学、経済、社会学から人類学といった研究者はやはり文学部、経済学部に籍置いたほうが研鑽期待できやせぬか。
▼昨日、曽玉成君の党首辞任を正式に決定した民建聯、今日の新聞の記事に「先週土曜日の幹部会にて、今後は政府政策のうち正確で世論に適うものについてのみ政府支持、と決定。全面的な政府支持はせず。」とあり思わず椅子からひっくり返りそうになる。御用政党とは知っていたものの表面上は一応、政府と距離おいた保守党の立場の維持しているのかと思っていたが。ここまで浅薄とは。
▼浅薄といえば政府教育統籌局長の李國章君。國章君、東亜銀行頭取の李Baby國寶君の実弟にて中文大医学部の著名教授にて学部長ながく務め中文大学長から董建華の問責局長制で教育統籌局局長に抜擢され相次ぐ局長クラスの失態の中でまだ世論の支持受けていたが大学生の授業料公費補助の削減を提案したことで矢面に立たされ香港の全大学の授業罷免の動きまで起こり学生との対話集会で一旦はスト回避し交渉上手ぶり見せたもののスト回避されればまた性懲りもなく予算削減提示し昨日は立法会にて公聴会となったが李局長、公費削減が論議の対象になるところ審議中にPDAに目を落としているところ公聴席の学生代表が上から眺めればPDAでなんとBejeweled!にてゲーム遊び。それを削減反対派に指摘され「ゲームならいったんゲームオーバーしても復た始められるが学生の教育なるものはいったん打ち切られたらもう再開できず!」と窘められる。御意。香港の李家の名士であり政府要人がこの幼稚ぶりとは。
▼築地H君との雑談で、「つくる会」の西尾幹ニ先生、そもそも極保守反動になったのは文学青年だった学生時代に東大同期の小田真が西尾先生も応募のフルブライト留学に受かり作家として売り出す様をみて嫉妬し、その反動で、という噂あり。結局、左翼で売れる小田真への反動。西尾先生になると松井のヤンキースの活躍ですら、普通の日本人なら「世界の舞台で活躍している日本人選手を誇りに思う」のが平凡な感想だろうが、西尾先生ときたら「日本では超一流の選手が、アメリカではあの程度の成績しか残せないという現実を見せ付けられて屈辱に身が震える」と。つくる会の歴史教科書もやたら日本文化をば「ギリシア美術に比べても」とか「ルネサンスに比肩しうる」とか。結局、リベラルを自虐的、自虐的と否定するが自らの根が自虐的か。人は自分の影をもっとも恐れる、とH君。