富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

陰暦十月廿五日

気温摂氏5.2/16.2度。快晴。

佐藤忠男先生の『小津安二郎の芸術』(朝日選書、上下)通読。先日、蓮實重彦監督 小津安二郎〔増補決定版〕』の謂はゞお清め。やはり「わかりやすく書く」ことが基本。佐藤先生は戦後の小津の『晩春』(昭和24年)からのあの世界はあまり感動もなかつたが昭和30年代にフィルムセンターで小津の戦前の作品を見る機会あり『生まれてはみたけれど』(昭7)と初トーキー作品となる『一人息子』(昭11)を見て小津の社会性もある面白さを発見したといふ。家族や家庭の安心。それに至福を感じる小津がなぜ生涯独身を通したのか。親子関係。父母に対する甘え。興味深い考察が続く。筆豆な小津。昭和2年に徴兵され入営の際に友人に送つたといふ手紙。最愛の祖母について。

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なんて筆致なのかしら。もうこれを読んだだけで映像までが浮かぶから。

この小津の本を県立図書館に返して雑誌コーナーで表千家の『茶道雑誌』(11月号)を読む。村上湛君が能のお話を連載してゐて直近が明日拝見する〈山姥〉だと聞いて、それを読んでおかうと思つたのだが、この号で取り上げられてゐたのは〈通小町〉。先日これも大槻文蔵師で拝見したばかりだがお能のあと湛君から聞いたやうに、物語としては破綻してゐるやうなものでも見事に演ずる力量のある役者の芸を伴ふと、この飛躍した物語も大胆な面白さになる、と。ここで湛君が紹介してゐる友枝三郎(1843〜1917)の〈通〉に対する言葉は恐れ入る。

このシテは月を見ても雨を見ても恨みの心がなければいけない。どの所作にもそれが出るやうになれば、それでおよろしいのです。

11月25日は国連の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」ださうで、それに合はせ旧県庁の建物はカラーマッピングが施されてゐた。水戸城三ノ丸の空堀と土塁。銀杏が見事。


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三三師匠の揮毫がお見事。「春」と「花」はまだ何とか読めるが「萬」と「舞」はあまりの崩し方。それでもこれも五體字類で引くと確かさう書ける。師匠がきちんと筆をとられてゐる証左。人文学オープンデータ共同利用センターのくずし字データベース検索

も便利。

萬國春風百花舞 春照青山籠雪

水戸市民会館

陰暦十月廿四日。気温摂氏4.4/16.5度。快晴。この季節、夕焼けがじつに見事。水府の市街地は高台にあるため西の低地からじわりと夕焼けが上つてくる。ほんの数分で盛りをすぎる。

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この市街地の泉町1に建設中の新しい水戸市民会館は来年7月開館だが建物本体工事終はり一般公開あり(13日)。

その13日から市民会館南側正面の商業エリアで早速、開店したのが元々この場所にあつた豆菓子の老舗。元々、水戸を代表する商業地でこのブロックも角から果物店、時計店、洋品店、豆菓子屋、紳士服仕立屋と並んでゐたが次々と廃業で、この豆菓子屋だけが残つてゐて新市民会館建設にあたり土地譲渡ではなく営業権を獲つたのだが「市民会館の施設に豆菓子屋は要らない」と思ふ。公共建築の正面に不似合ひ。必要なのはカフェだとかバール、であつて(この豆菓子屋の店内に立ち飲みのカフェもあるやうだが)コンサートの前後も軽く食事ができるとか、店舗ならまず必要なのはコンビニだらう。この市民会館は国道50号線に面してゐるが直近のコンビニまで500mくらゐ。さう思ふとまことに不便。目の前にデパート(傾城水戸)があるがコンビニの役には立たない。

新市民会館の新店舗(左)と取り壊し前の旧店舗

この新市民会館計画に共産党市議団は反対をまだ続けてゐるがアタシもこの計画は明らかに失敗だと思ふ。箱物行政の極み。今どき3千人規模のホールなど不要。市民の憩ひの場なら市の中心部なのだからまさにチェントロ(中心)の広場にすれば良かつた。イベントのない昼間など無駄な建物空間であるし伊東豊雄先生の設計もモクをふんだんに使つたといふ「売り」だけで外観からしてパッとしない失敗作。この市民会館の北側にある水戸芸術館磯崎新)の見事な広場性を台なしに。東関東大震災のあと被災した市役所をこちらに建設する案もあつたが市役所の方が昼間何千人といふ人が集まる場所で周辺の飲食店なども賑はひ余程良かつただらう。それでも、もし市役所ができてゐたとしても、その商業エリアに豆菓子屋はいらない。コンビニである。

▼ふとスマホのアプリで辞書(広辞苑)の履歴を見た。検索履歴にある「みうらじゅん」は何だ。なぜ広辞苑みうらじゅんを探したのか。第九版あたりで歴史上の偉人として「みうらじゅん」が項目になるかもしれないのだけど。

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願榮光歸香港@仁川

十月廿二日。気温摂氏6.6/12.7度。雨(8.5mm)。

先週土曜(12日)朝のウィークエンドサンシャイン(NHK-FM)を「聞き逃し」で聴いたらビートルズの“Revolver”から今年10月に Super Deluxe editionのCDが出たさうで、その特集。“Elenor Rigby”や“Here, There and Everywhere”など別テイクも面白く何よりも“Yellow Submarine”のジョンが歌ふデモのヴァージョンは何度も聞いて涙腺すら緩む。

コトもあらうに香港が拠点の7人制ラグビーの韓国開催(仁川)で香港vs韓国の試合の際に国歌演奏で香港の国歌として〈願榮光歸香港〉流れてしまふ椿事あり。こんなことで香港チームの今後の出場すら危ぶまれるかと選手団から(彼らの内心な知らぬが)抗議あり香港政府、中共も当然、主催団体、韓国政府に強烈抗議。それにしてもまさに椿事はおもしろい。

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さらば愛しき大地

陰暦十月廿一日。気温摂氏10/18度。快晴。昼前に瓜連の映画館あまや座へ。

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観るのはもう何度目なのかしら。柳町光男監督〈さらば愛しき大地〉は名作。〈さらば〉はもう場面、セリフかなり覚えてゐるが今日の発見は2つ。1つは土砂運搬の手配師が事務所に使ふ中古のバスの払ひ下げが茨城交通のバスで乗降口横の看板が一昨日会つたS君の家が営む水府の洋品店Mの看板であることと根津甚八秋吉久美子の二人が水府に遊ぶ偕楽園に〈左近の松〉あり。これは貴重。それにしてもなんでこの映画だけはもう4、5回見てゐるが飽きないのかしら(2014年の日剩)。とにかく根津甚八覚醒剤中毒になつてからの顔が抱きしめたいくらゐ可愛らしい。アップでの表情は、もう昭和の最高のショットだらう。あの可愛らしい顔だから、どれだけ「ごじゃっぺ」の意気地なしでも母親もツレ(秋吉久美子)も彼を赦してしまふ。その可愛らしさを出した甚八の見事。これに騙されなかった妻の覚悟、それを演じた山口美也子が素晴らしい。早速、M洋品店のS君にこの映画のシーンに看板映つてゐることSMSしたら彼も、つまり家族もそれをご存知なかつたやう。

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前作の1979年作品〈十九歳の地図〉を見たのは高校の授業をサボつて水府の宮下銀座あつた新水戸会館のオデオン座だつた。
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昼前から見た映画が終はつたのが午後2時すぎ。瓜連から久慈川山田川を渡り太田の藤田にある蕎麦や〈田季野〉へ。午後2時半すぎて昼の最後の客。1時間程前に須磨帆忘れた客あり。ご亭主に蕎麦を茹でてゐる間に電話あるといけないので電話かゝつてきたら応答してくれないか、と須磨帆預けられる。電話なかつたがご亭主は心配して落とし主に電話してやれないか、と求められ、その須磨帆の「緊急」モードで落とし主のご家族に電話したが、かうした場合にどこからがあくまで本人のプライバシーなのか、やはり考へると疑問もあり。


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佐藤忠良展@いわき市立美術館

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陰暦十月二十日。水戸からイワキに参り候。常磐線で行き先はあくまで平(たいら)なのだがいつからか驛名までイワキになつてしまつた。水戸を09:09発の各駅停車に乗らうと思つたら旧型の急行ときわ仕様塗装の列車。日曜の朝で適度に空いてゐたが家人と占領したボックス席で私の背向かふに乗り込んできた青年がまぁ酒臭く誰だかにケータイで話し始めて迷惑。それが否応なしに聞こえてくるが仕事の愚痴だと思つたら水府の大工町のキャバクラ?だかで働く青年。キャバクラの雇用の不公平、キャッチとボイの条件不平等等を話してゐて最初はうるさいと思つたが聞いてゐると青年の比喩だとか喩へが実に妙で相手への説得力のある理路騒然とした話。お見事。それが列車が久慈川を渡り大甕(おゝみか)に到着するあたりで寝落ち。今朝早くまで働き何処かで酒を飲んで帰宅の青年が車両の扉横の2人掛けシートに臥せて爆睡。水府で大工町の歓楽街で夜通しの勤務で鉄道を使ふ通勤はせいぜい北は日立だと思ふのだが日立でも起きず。結局この爆睡青年は勿来関を潜り奥州へ。終点のいわきで列車は一旦、勝田車両センターに入るのだが、この青年は起きず。ホームで列車最終尾から歩いてきた車掌に家人が「寝て起きない乗客が」と言つたら丁度、列車から降りて歩き始めた。気がついたらイワキ(だが気がついただけマシ)ホームで一瞬「こゝはどこ?アタシは誰?」だつた彼がホーム反対側で倒れ込むやうに乗り込んだ列車は彼にしてみれば常磐線の上りだつたのかもしれないが各停(下り)の広野行き。で彼が乗るなりドアが閉まり発車。水戸で働くのに日立ならまだ通勤圏だがイワキは水府から101分もかゝり彼は更に常磐線以北から通勤とは到底思へない。家人は「週末の勤務明けで福島浜通りの実家に帰るんじゃ?」といふが手ぶらで泥酔である。終日この彼が何うやつて帰宅したのかが気になる。仙台まで行つてしまつて、これから国分町で生業を見つけるかもしれない。

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いわき市立美術館。先月10日はアーノルド=ローベル展を見て次にこの佐藤忠良展あることを識り本日参つた次第。前回は自動車だつたのは五浦の岡倉天心記念美術館(齋藤隆三展)も見るのに五浦が交通の便が悪く自動車の方が楽だつたから。今日はいわきだけなので常磐線で来た次第。前回は夏休みのローベル展で子どもも多く来てゐたが本日はまことに閑か。忠良は絵本『大きなかぶ』でしか知らなかつたが彼の彫塑像のまぁステキなこと。一体一体見てゐて飽きることがない。『大きなかぶ』は小学校の教科書にも採用されてゐるが当時から共産主義的なんていはれもした作品。あの独特の絵の世界が「ソ連の田舎の民衆」そのもののイメージにすらなつてゐる。あの目のまわりが青いのも不思議。忠良は昭和19年に入隊して満州ソ連、朝鮮の国境に配属されシベリア抑留を経て昭和23年、舞鶴に帰還。この年の内に日本共産党入党で昭和39年に除名。今回展示されたコレクションの多くは宮城県美術館所蔵。これは昭和61年に忠良が所蔵する全作品を郷里の宮城県に寄贈としたため。宮城県美術館には佐藤忠良記念館もあつたさうだが記憶にないと思つたら開館は平成2年のこと。

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いわき市の人口は35万人なので水戸(27万人)より大きいがいわき駅前の商業地区の閑散は甚だしい。いわき市は昭和の当時は日本で最も面積の大きな市。それが昨今の市町村大合併で日本一は岐阜県高山市で2,118㎢は東京都(2,187㎢)と大阪府(1,897㎢)の間くらゐ(ちなみに日本で最も面積の小さな都道府県は香川県で1,876㎢)。いわき市は面積では今は全国12位。常磐線の特急でいわき市(勿来〜未続)は44.5kmあり普通列車(685M)で通過に85分要す。高速道路のやうな国道6号のバイパスが縦貫してゐて郊外の商業施設に住民は向かふことになる。

いわき駅前でサッカーいわきFCのホームでの試合応援するPVも数えられる程度の人出

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本日いわき市立美術館出て賑はひもなき平の旧市街歩いてゐて澤木屋なる酒屋ありイワキに来たのだから内郷の清酒〈又兵衛〉でも買つて帰らうかと暖簾潜ればなか/\立派な酒屋で焼酎の計り売りも充実。清酒は?と思つたら店のお兄さんに「こちらです」と蔵のやうな厚扉開けられ、その向かふが冷蔵で日本酒がずらりと並ぶ。又兵衛の純米酒〈いわき郷〉を購めたが地元の太平櫻酒造の〈ハタチ酒〉なるプロジェクト(こちら)の清酒もあり迷つた末にやはり順当に前者。お会計のときカウンターに何だかオリジナル?のマグあり約二合で保温も温冷いずれも十分で更に啤酒など炭酸も密閉で大丈夫だといふので、その酒屋(澤木屋)オリジナルのマグを買ひ求めたら、それが本日つい先ほど店頭に並べた新商品でアタシらが最初の購入者だと縁起の良いこといはれ折角だからとお好きなお酒を詰め〼と店主のサーヴィスで〈ハタチ酒〉を並々注いでいたゞく。初めて訪れた店でかうしたやりとりがまことに楽しい。いわきからの復路は午後1時過ぎに各停が80分だかない時間に当たつてしまひ特急ひたちに乗つたが取手だかの投身自殺かの影響で不通区間ありアタシらの乗つたヒタチは水戸でアタシら降りたあと小一時間停車で遅延あつた模様。死ぬなら誰にも迷惑のかゝらぬ青木ヶ原の樹海だとか海で入水でもしてもらへば楽なのだが、やはり鉄道への投身自殺が絶へぬのは自殺もどこか「インパクト」無意識に期待?はこの世への名残なのかしら。

▼本日の競馬はGⅢの福島記念(3歳上牝馬の芝2000m)と阪神エリザベス女王杯(GⅠ)で前者の◎アラタ(1番人気)で宝塚記念2着のユニコーンライオン(国分優騎手)が先行のまゝ10番人気で堂々の優勝。スポーツ新聞でデータは過去3レースのみだつたが宝塚記念2着は(結果論だが)蔑ろにしてはいけなかつた。後者はデアリングタクト1番人気だが何うももう戦力外に思へて4番人気のジェアルディーナ(4番人気)の単勝は的中🎯でやはり母ジェンティルドンアの血は争へぬと思ふ。単勝810円也。

▼大相撲九州場所初日。やはり日曜の夕方は相撲にかぎる。宇良●と霧馬山○、玉鷲パパ●と酒で親方に迷惑かける逸ノ城○、琴ノ若●と豊昇龍○、若隆景●と高安○と面白い取り組み続き角番の大関正代は小結飛猿から黒星。

陰暦十月十九日

気温摂氏9.9/21.2度。晩に小学校のときの同窓会あり。8月に急きょ十数名で集まる機会あつたが前もつて予定しては小学校卒業以来初めて。二十名ほど集まる。会場は大工町の日本料理やで同級だつた女子の弟さんが切盛りしてお父さまもまだ現役でお店に。幹事役。貸切でお会計は立替へで先にお支払ひ。同窓会となると昔話に花が咲くのはよいが供された料理を残しがちなので食事もきちんとしてもらはないと。二次会は近所で同窓の女子が営むスナックに十数名。こちらも貸切。半夜三更にお開き。急きょS君が一夜明かす寝ぐら必要となりK君が空き家になつてゐる北米仕様の巨大なトレーラーハウスに泊めてあげるといふので数名で深夜、そのトレーラーハウス家ほめ。下手な日本家屋より広々。三名はこれからまだジャズバーに飲みにゆくといふがさすがに遠慮して帰宅。