富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

中文大学学生会解散

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リンテイ市長の施政報告(昨日)。5年の行政長官任期で今回が最後。もう1期続投すれば話は別だが、このエリートが心を鬼にして行政長官の椅子にしがみつくのか。2時間に及ぶ施政報告でリンテイは41年前に香港政府に奉職以来「為民服務」の理念と「積極有為」の作風で政治体制として「更公平、更仁愛」の香港社会建設に尽くし4年前に行政長官就任は彼女の公務員生涯で「最大的榮耀和人生中最大挑戰」であつたと宣ふ。明らかにスガの如く退任前の自画自賛としか聞こえない。

她提及自己上任不到兩年,就因「修例風波」、社會「暴亂」、外部勢力「干預」和疫情等,承受前所未有的巨大壓力,支撐她「排除萬難」,是「中央永遠是特區堅強後盾的諄諄囑咐」,她就職時承諾為香港市民護航的「不變初心」,她家人的信任及支持,她講到這部分時多次停頓並貌似哽咽;而目前香港在國安法和選舉制度「雙重保障」下,已回到「一國兩制」「正確軌道」,她比任何時候都對香港更有信心,更肯定香港可以融入國家發展大局。(立場新聞)

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逃亡犯条例に起因する社会の暴乱、海外勢力の干渉と武漢肺炎でリンテイは巨大な未曾有の圧力を受けたが万難を排すことができたのは香港特区にとつての中央政府の強靭な後ろ盾があつたからで、それをもつて自分の初心を忘れず香港社会に尽くせたのは(このへんから嗚咽に声を詰まらせながら)家族のサポートがあつたからで(本当にリンテイの夫・林先生が彼女をどこまで理念的に支援できたかは不明だが)国安法と選挙制度改革の「雙重保障」の下で一国両制を整へ香港を正確な軌道に乗せることができた、この安定でもつて香港は国家の発展の大局的な未来に積極的に関与してゆくのである……もう目も当てられないこのリンテイ演説。そもそもリンテイが逃亡犯条例など持ち出したのが諸悪の根源で反政府抗議が大きくなつたわけで自分の撒いたタネで海外勢力ではなく中央政府の干渉を招き国安法と選挙制度改革で一国両制を台なしにしたのが事実だらう。この演説の途中で演台横に飾つた施政方針演説内容の冊子と立法会簡紹のパンフレットのディスプレイが音を立てゝ崩れリンテイの驚愕の表情ったらありゃしない(明報)。こんなことで溜飲下げるしかない。部下はリンテイ市長に失態を平謝りだらうが保安局長は、このアクシデントも海外勢力と反政府派が仕組んだ悪事の可能性も否定できず公安警察に捜査命じるかも。


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写真(左上)は妻(リンテイ)の施政方針演説を拝聴に立法会議事堂を訪れたリンテイ亭主の林先生。周囲を行政会議メンバーに囲まれて。尊子の漫画は今から一国両制の50年不変の期限である2047年までリンテイは施政で涙数滴を入れて、と揶揄。
▼昨日の日剰に綴つた香港の国安裁判裁判官の疾病で病気休暇、入院。立場新聞によればQueen Mary HospitalのICUで治療受けてゐて心臓病なのだとか。これが心労によるものか何うかは不明だが。

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▲一昨年の抗争のなかで「暴大」とすら呼ばれた中文大学で学生会が急きょ「解散」を決定。政治的圧力で学生会の組織改革(親中派による運営にするとか)なら「まだ」わかるが大学側はこれまで学生会会費を授業料等と一緒に徴収まで代行してゐたものを中止して学生会は独自に社団として登記(管轄は警察)として実質的に大学運営母体からの分断を決定。国安法で学生会運営のリスク大きく、これでは解散以外の選択もあるまい。

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昨年もだつたが初秋の栗蒸し羊羹は水府の鉢の木のものと「とらや」。前者は生菓子で新鮮さがよく後者は風味がさすが。夕食後に少しほろ酔ひで、この羊羹頬張りウトウトしてゐたら地震。かなり大きなものだがガタガタとくる程でもなくゆるりゆるりと震度4程度で東京の方では震度5強ださう。M6.1なら壊滅的な被害はないだらうが呟板で愛書家の方々だと書架から本が崩れたりも場合によつては命にかゝはるしタワーマンションなど昇降機不通では出入りもまゝならず。電車も止まり大都市圏での地震は間接的な被害も大きい。かういふときは地方暮らしにほっとする。

007 "No Time To Die"


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リンテイ市長が本日、施政方針演説。党紙・大公報によればリンテイが民意に応へる、それは内地との「通関」なのだといふ。健康データのICT管理によつて内地との通関手続きをスムーズに!が香港市民の民意なのか。香港市民の民意は政治の民主化と人権と自由の保障だつたはずなのだが。(明報)国安法裁判官が疾病で急きょ休暇。国安法施行で国安法違反での犯罪者裁判は政府が指名した国安法専門の裁判官が裁くわけで民主派に温情的な裁判官は最初から排除され国安法に誠実な裁判が行われるシナリオ。連日のいくつもの裁判の中で体調を崩したと聞いても驚かない。その上、国安法といふ法治を超越した悪法での裁判では裁判官には法治への理念、良心の呵責はあれば精神的にもかなりのストレスにならないはずもない。この急きょ休暇の裁判官は国安法裁判の中で40数名の民主党関係者をまとめて裁くケースで一連の裁判で保釈が認められぬなか15名だかの被告の保釈認め、それに対して保釈不満とする司法長官から司法審査を求められたのだから、とんでもない心理的圧力のなかにあるはず。

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映画「007」“No Time To Die”を見る。水戸駅前の映画館で平日の夜とはいへ460人収容で観客は16人。007シリーズは昭和46年の「ダイヤモンドは永遠に」を父に連れられて見に行つてから習慣で新作のたびにずつと見てゐる。あまり映画を見に行かない父だつたが007は昭和42年の、日本を舞台にした「007は二度死ぬ」が最高だつただらう。先考は元警視庁で自分の親ながら武芸にも優れ二枚目で特殊工作員役などニンだつただらう。自分が007のつもりで007を見てゐた。「二度死ぬ」は東京オリンピック後の東京の景観が印象的だが(何よりもタイガー(丹波哲郎)が丸の内線に専用列車は凄かつたが)冒頭の舞台は香港で、それも見て楽しい。007シリーズはいつも楽しみだが最近のダニエル=クレイグの007は何だか深刻すぎて見てゐて肩が凝る。やはりちょっとふざけたショーン=コネリーがホテルにチェックインして着替えてホテルのバーに出向いてウオツカのマティーニを注文して飲むか飲まぬのうちに……美女を連れてのカーチェイスで危機一髪のところ現地のエージェントに助けられ連れて行かれた先にQの出先の秘密基地があつて……。最近の007は登場人物の過去だとか背景だとか因果関係が複雑すぎる。(ネタバレになることへの言及は避けたいが)この映画公開は古呂奈の影響で1年遅れたさうだが「昔なら敵の悪党をやつければ良かつたが今は敵がどこにゐるのか、見えないところで敵がうようよしてゐる」で特殊な細菌兵器への感染が最大の危機といふ、まさに今の時代の恐怖を反映。ところで最後、本当の敵が危険な商取引をしてゐた「国家」が、007でかつての敵は共産ソ連であつたが、今回の高速艇の船団は「国籍不明」としてゐるが想定は明らかにあの強国だらう。さうなると気になるのはあの強国がこの映画の上映を許可するのか、世界的に話題の映画だが一部、けしからん!とカットでもされないものかが気になる。


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外国映画は世界同時開幕の香港では〈生死有時〉上映中。さすが一国両制。それに対して内地はこの〈无暇赴死〉は話題になつてゐて上映は?と確認したら10月29日上映開始だとか(丹尼尔·克雷格最后一部007电影,终于中国定档了!)。

ジェームス=ボンドの秘密兵器に日本製はないが(スマホNokiaであつた)この映画に出てくる大敵の日本趣味も日本ではウケることだらう。能面。秘密基地の全趣味。枯山水。畳に正座。日本が注目されることがほんと好きな日本、といへばノーベル物理学賞真鍋博士の受賞フィーバーも凄かつた。一昨晩、この受賞のニュースがNHKの夜7時のニュースでトップなのはまだ理解できるが(10分も時間を割いたが)その前の地方局のニュース番組の途中でも速報でテロップが流れるどころか神南のスタジオに切り替へてまでしての速報。日本出身の日本人であることは事実だが米国に渡り研究を続け米国籍をとり永住。アゼルバイジャン出身の科学者が米国でこのやうな実績でノーベル賞のときアゼルバイジャンではどの程度の騒ぎになるのかしら。有識者が「この受賞で日本の科学技術も、これに触発され、これが発展に向けた大きな勇気を与えてくれることを……」なんてコメントしてゐたが「日本出身者が受賞」は日本に科学技術立国としての復興よりも「やはり研究成功させるなら米国へ」になりはせぬか。それにしても若いときから米国暮らしなので日本語よりもう米語の方が堪能なのかと思つてゐたがセイジオザワ先生並みの、所謂ブロークンなジャパニーズイングリッシュで十分やつていけてゐるのだから大したもの。

真鍋さんが言葉を濁す「日本へのメッセージ」(朝日新聞)

日本で人びとは常に、お互いの心をわずらわせまいと気にかけています。とても調和の取れた関係性です。これが日本の人びとが簡単に仲良くなる理由の一つです。
何かを質問するとイエスかノーで答えを得ますが日本人が「イエス」と言っても、それは必ずしも「イエス」を意味せず「ノー」かもしれません。
なぜなら誰かの感情を傷つけたくないからです。(日本人が)なによりもしたくないこと、それは「誰かの心をわずらわせること」なのです。アメリカではやりたいことができる。他人がどう感じているか、それほど気にしなくていい。
なぜか。実際のところ、私は他人の感情を傷つけたくはないのですが、彼らが何を考えているのか、それを把握するほど、彼らのことを観察しているわけではないんです。
米国で暮らすって、素晴らしいことですよ。私のような科学者が研究でやりたいことを何でもやることができる。上司が本当に寛大で、やりたいことを何でもやらせてくれた。コンピューターなどの支出を全てまかなってくれた。私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありません。
私は調和の中で生きることができません。それが「日本に帰りたくない理由」の一つなんです。

吉田健一ふたたび

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港島、九龍に続き新界東でも区議会議員の宣誓で16人の議員資格剥奪かと大公報。逃亡犯条例反対で暴力行為、その反政府世論の勢ひで不当に区議会選挙で票獲得で当選……と、もうインネンをつけるにも無茶苦茶。
f:id:fookpaktsuen:20211005074054j:image(明報)「民主党にはどれだけ政治的空間があり、何をできるか、だ」と参選回避すら思案する民主党にエール送る仙人風の男性(明報)……韓東方さんではないか。あの好青年が仙人に。

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内地で労使問題に取組み天安門での民主化運動にあつて北京労働自治連合なる組織をつくり民主化運動支援。当局から指名手配、逮捕で収監されたが肺結核で治療理由に渡米。中国に戻つた際に広州空港だつたかで当局に身柄拘束され、それでも海外の関心高く強制出境させられ香港へ。それが1993年のこと。内地に戻れぬまゝ香港に居残り永住権取得して1997年返還後も香港で中国民主化運動に携はつた方。「内地でも民主化要求はけして放棄されたわけではないのだから香港は内地に比べたら発言の自由など空間はまだあるわけで運動を断念してはいけない」。

▼川本直/樫原達郎編『吉田健一ふたたび冨山房インターナショナル

吉田健一ふたたび

吉田健一がブームなのだといふ。随筆は洒脱で英国文学と英国社会を語らせれば一流。死後40年以上経つて現在、新刊で読める著作が32もあるのだといふから恐れ入る。この『ふたたび』は川本直といふ若い文芸評論家が仲間の健一好きを集めて「吉田健一友の会」なるものを結成して彼らの吉田健一に関する評論などを集めたもので昔から健坊を読んできてゐると今更で新しいこともないのだが一つだけ興味津々なることは彼らが吉田健一の娘で回想録など書いてゐた暁子さんがひっそりと家守をする新宿払方町にある吉田健一邸を訪れる出来事。暁子さんに手紙を出すと暁子さんはは高齢で体調もすぐれず彼女の母方の従兄にあたる方から「吉田邸の土地は近々処分され家屋も取り壊される予定で吉田の遺品や蔵書など鎌倉の近代文学館に寄贈するのに、その整理や土地の処分のあれこれをしてゐる」と連絡があり折角であるから取り壊し前に訪問を打診されるのだ。吉田健一には一男一女あり兄(健介)はすでに他界して妻はイタリア人で海外にお住まひか健一邸で暁子さんの面倒を見ることもできず、この従兄氏がすべて取り計らつてゐるのだといふ。周囲から隔絶されたやうに樹木が茂りひっそりとした健一邸は、この文人の生前のまゝ書斎の灰皿のタバコの吸い殻と灰まで当時のまゝ保存されてゐて川本直らはそれを映像に残せただけでも大した出来事である。ところで麻生太郎は健一の甥にあたり健一なら甥の傲慢と横柄ぶりを何う不愉快に思つたところか。

▼2日の能<伯母捨>について。姥捨て山伝説といふと映画の強烈な印象で晩秋に冬を迎へるにあたりで姥捨山はきびしい雪嵐なのだが能<伯母捨>では秋の月で丁度この季節にあたる。この日の日剰でアタシも<序の舞>について、これを理解するにはまだ勉強不足と書いたが畏友・村上湛君による当日のパンフレットの解説に興味深い記述あり。

(秘曲であり芸の蘊奥を極めんとする特別の演者にのみ許されることから)多くの能役者たちから「俗情を脱した浄化の能」との思い入れを寄せられやすいが、それはちょっと違うようだ。後シテは「返せや返せ昔の秋を、思ひ出たり妄執の心」と煩悩の自覚のまま、「独り捨てられて」終わる。前シテの言うように「秋ごとに執心の闇を晴らさん」、言い換えれば、永遠に捨てられ続ける業苦が<伯母捨>のドラマなのだ。その意味では、永遠に業火の水桶を汲み続ける<檜垣>の劇世界とごく近いところにある能だと言えよう。

安部公房の『砂の女』にも通じる不条理だが、この舞ひを「永遠に捨てられ続ける業苦」の表現としてこれから機会があれば何度か見てみたいと思ふ。

▼スガ動静(4日)07:56 官邸。最後の敷地内の朝の散歩。09:04 最後の閣議(臨時)以降、午前は用事なし。官邸で最後の昼食。12:32 官邸玄関ホールで職員らから見送り。さようなら、スガ。その後、自民党の一兵卒として衆議院本会議。

▼(毎日新聞世論調査)岸田君の内閣支持率は49%と5割に届かず(昨年9月のスガで64%)。不支持率が40%とは。閣僚の顔ぶれに「期待感が持てる」は21%で「持てない」が51%に。晋三はさぞやほくそ笑んでゐることだらう。日経は支持が59%で朝日は毎日より低く45%だが不支持は20%に留まる。かなりブレはあるが従前からの「ご祝儀支持」がないのは事実。だがその分の20~30%なんて小泉郵政改革、民主党政権交代、晋三コールと節操なく何でも新しけりゃで支持する連中なので、それが差っ引かれてゐると思へばむしろ着実な政策での政府運営に努めれば良いのかもしれない。岸田君の記者会見を聞いたがスガに比べ言葉こそはつきりと淀みなく出てはくるが内容に関しては抽象的だからと記者に質されても回答も漠然として宏池会にしては政策が具体的ではない印象もたざるを得ず。

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首相指名選挙でこの人⇧に1票。野党かららしい。誰だい、ふざけた冗談は。

十月新派特別公演@新橋演舞場


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職工聯が組織解散決議(昨日)。天安門事件の年(1989)に設立され主席は劉千石*1で秘書長が司徒華先生。資産2千万香港ドル(2.8億円)で、これも当局は資金源など徹底的に究明なのだらう。香港の労働運動は英国統治時代に中共が労組を香港での重要な運動拠点として組織し「工聯会」は1997年以降は親中的であるため、それに対抗する形で組織されのが「職工聯」だつた。


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(明報:左上)香港での現代史の歴史教育では英国統治時代のマイナス面の記載強化ださう。中共史では文革や大躍進は「若干の失策もあつたが」結果的に祖国の飛躍的発展で帳消しに。(明報:右上)香港の行政が特区政府になく実質的には中連弁であることは誰もが知る事実だが北区(新界の深圳ボーダー)に経済中心の建造といつた具体的な香港の開発計画を中連弁副主任がコメントして、すると香港市役所が実務に汗をかくといふ、もはや一国両制なんてものが実質的に全く機能してゐないありさまよ。

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家人と新橋演舞場。新派の公演は昨年2月に演舞場での<八つ墓村>が途中で中止となつて以来。今年の3月末に歌舞伎座(松島屋の陣屋)で観劇の久里子の尊顔拝したがロビーで久里子が知己に挨拶で周囲も気にせず「ほんと、こんな芝居がなかつたら、もう役者はみんな死んじゃうわよ」と叫んでゐたものだつた。それが再開で何より。花柳章太郎追善。この新派の名優が亡くなつたのが昭和40年で章太郎は見ておきたかつた。本日は八重子が雪之丞と<小梅と一重>。池乃久里子と藤山直美で<太夫さん>。今の新派の大看板でこの演目で1年半ぶりとあつては客の入りも上々と期待したいところだが空席かなり目立つ。新派ではもう三越劇場くらゐのサイズの小屋が十分なのか。下手したら演舞場での月を通しての新派公演はこれが最後になるかいなや。小梅役の雪之丞は歌舞伎から新派に移つたのがまことに成功。大和屋も新派公演で小梅演じてゐるわけだが、それと比べても雪之丞には当たり役かも。北條秀司作の<太夫さん>はぜひ見てみたかつた演目。昭和23年で京都島原の老舗妓楼で遊女たちも労働条件改善求めストライキ、その後のこの妓楼の在り様がいかにも戦後史的で背景だけでも面白いのはさすが北條先生の代表作。直美が大病から復帰は喜ばしいところ。それでも最初の出は顔も見せず薄汚いつくりで舞台袖に控えてゐたので誰もそれが直美だとは気づかないほどだつたが顔を上げれば設定は戦後の混乱期で窶れた姿とはいへ、やはりアタシたちは肥えた元気な直美が目に焼きついてゐるから演舞場でも中村屋柄本明との浅草パラダイスなど思ひ出し、この喜劇女優には存在の大きさの元気に取り戻してもらいたいと願ふ。久里子が妓楼の女将(おえい)でさすがの貫禄を見せる。


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秋晴れといふには気温摂氏30度。それでも風が心地よい。箸の夏野。ヤマハ楽器店。先に行つてゐた家人と待ち合はせだが、いま鍵盤ハーモニカに少し関心あり鈴木楽器製作所からメロディオンなる商標で高級木製品が出てゐて10万円もするのだがヤマハ銀座店に現品あるといふので尋ねてみたら今は注文で仕入れるだけだといはれる。銀座ライオン。緊急事態宣言明けが嬉しそうな酒飲みが明るいうちから麦酒をぐびぐび。これが本当にコロナ明けなら良いのだが。さういへば昨晩遅くに巴里のロンシャン競馬場からの中継で凱旋門賞を見たが競馬場内でマスク着用してしてゐる人はほんの数へる程であつた。さして銀座で他に何も用事もなくまだ夕方だつたが早めに何か食べて帰らうといふことになり一丁目の三州屋へ。三州屋は定食と酒で馳名だが銀座のこの一角に「銀座店」と「一丁目店」が目と鼻の先にあつて銀座通りに近い方の一丁目店が丁度、口開けだつたのでそちらに入る。あとと顔本で判つたのだが30年以上前の東京広尾で一緒に働いてゐたI氏が「銀座店」の方に同時間に飲みに行つてゐた。f:id:fookpaktsuen:20211005084941j:image

歩いて東京駅丸の内へ。三州屋で飲んでゐたときに箸の夏野から電話あり夏野の新丸ビル店に寄る。すてきなインテリアの高級店舗が並ぶが午後6時過ぎの閑散さは水戸の駅ビルより以上。本当に客がゐない。東京駅周辺の場合、週末を除けば地方からの、そして海外からの旅行客が十分にあつて商売になるやうな算段なのだから。

*1:劉千石は英国統治時代からの労働運動のベテランで民主党や支連会の重要なメンバーであつたが広州出身で中共から回郷証没収され帰省できず病院の老母に一目会ふのに董建華中央政府との間で仲介して(2000年)その後、反中的発言を控へるやうになり民主化運動から離脱、ついにリンテイ市長支持まで明言で完ぺきに転向といふか体制寄り。だがどちらからも相手にされぬ存在に。

農暦八月廿七日

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一昨年の反修例「暴動」以来、警察が反政府抗議活動で逮捕(身柄拘束で事情聴取の上の釈放に非ず)は10,265人で2,684人(26.1%)が起訴され結審は56.9%(1,527人)で有罪率は78.4%で905人がすでに刑確定だといふ。明報の集計⇧によると起訴された(「2,684人のうち」といふことになるだらうが)750人には「暴動罪」が適用され、そのなかには71(立法会突入)や721(元朗暴行)、831(太子站警察暴力)や暴動罪適用者数が最大の理工大学衝突(302人)など国安法下の裁判とはいへ司法判断に注目集まる事件も多い。しかしなにせ1千件余の裁判があつて、さうした重大案件は裁判の開審すら2023年になるものもあり。今後も収監が増えればマジに刑務所が足りなくなるのではないか。

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水戸にDalmaison(HP)といふスウィーツの人気店あり。「何でも郊外」の時流にあつて、このお店は旧市街で傾城水戸の近くにあるだけでも珍しい。月曜定休で営業が木〜日曜なのは火、水曜は仕込みなのださう。ご亭主は茨城(高萩)出身で成城にあつたマルメゾンで修行され水戸でご自身の店をもつことになつたが「マル」に対して「ダル」はご亭主の苗字が「達」さんで、これで「ダル」と読む珍しいもの。それでお店の名前がかうなつたらしい。とても人気で夕方になると、もうケーキなど売り切れ多くバレンタインなど大変なことになつてゐる。

f:id:fookpaktsuen:20211003223836j:image昨日、原宿の「瑞穂」で買ひ求めた豆大福をいたゞく。一晩でちょっと硬くなつてしまつふ。銀座の空也のご亭主が(『銀座百点』10月号を読んでゐたら)言つてゐたが「朝生菓子」といふのは「朝つくって、その日のうちに食べる」それが美味しい。東京の豆大福は泉岳寺松嶋屋、そしてこの原宿の瑞穂と護国寺群林堂。水戸では何といつても小倉屋のそれが全国区。大福は江戸の「うずら餅」が明和初期に小石川で今の形の大福となつて売り出されたのださう。

塩津能ノ會

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台風16号は昨日伊豆諸島から太平洋を東北に抜ける。水戸は昨日の降水量75㎜、最大瞬間風速は17.8mで天気は荒れたが被害が生じるものではなし。未明まで風は強かつたが夜が明けると東空に台風の雨雲が流れ去らうとしてゐた。台風一過の快晴となる。

水戸駅で品川行き上り列車(各停)に乗りグリーン車Suicaをタッチしたら車内放送で「台風の強風により水郡線で線路に倒木があり安全確認のため水郡線の列車到着が遅れ、その到着を待ち連絡の上、定刻ではこの列車のアトになる特急が先の出発になります」で各停は9分遅れで出発となつたが途中で抜かれるはずだつた特急が先行したことで追いかける方が楽なわけで松戸では遅れを取り戻してゐた。品川から原宿へ。

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原宿なんて何十年ぶりか。原宿駅の駅舎も目新しい。豆大福の「瑞穂」は表参道から細い道に入り「行列はどれくらいか」と心配しつゝ道を曲がると店の前に待つお客は1人だけであつた。ほっとする。豆大福を買ひ求め何となく習慣で筒井康隆邸に足が向く。康隆先生は笑犬楼の「偽文士日碌」が七月で終つたので直近で神戸にいらっしゃるのか此方なのかもわからないが何となくお人の気配といふものがなかつた。それにしても暑い。夏のやうな湿度がないだけ助かるが。太田記念美術館歌川国芳展を見るつもりだが瑞穂で並ばなかつたので開館時間まで半時間ほど時間もて余し竹下通りになんて出ないやうに路地裏を歩いてゐたらさすが原宿で瀟洒な店が並んでゐてモーツァルト通りといふのださう。それにしても原宿といふのは美容室の多いこと。

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没後160年記念 歌川国芳 | 太田記念美術館 

この国芳展について書いてゐたのは香港から英国移住直前の陶傑先生で国芳天保の改革の質素倹約、風紀粛清の中で昔の伝説物や動物の擬人化を用ゐることで暗喩などをどれだけ用ゐて世相を表現したか。太閤記がダメなら源平に、花魁の浮世絵が叱られるなら婦女子の真面目な美人画に。役者絵も禁じられたら動物を役者に。パロディ、風刺……できうる表現で圧政に反発する。禁令の網を何う掻ひ潜るか。陶傑先生が指摘することは当然、国安法下の香港で言論も制約を受けるなかでの智慧である。さう奮ひの巧妙を国芳から説くのが陶傑さんの面白さだがご本人が香港の禁制厭ひ渡英してしまつたのだから。

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国芳といふとデフォルメした巨大な骸骨や擬人化した動物など奇異を衒つた画の印象が強いが風景画など遠近法や陰影の作り方がじつに西洋画の技法取入れ見事。忠臣蔵の十一段目など討入りの場面で梯子の影まで肉眼で当時の刷りの版画を眺めると写真ではわからない立体感まであり驚くほど。

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お昼近くなつたが「原宿で食事」なんて何も知らない。竹下通りでクレープかワッフルか。ふと鎌倉の何某といふ蕎麦屋の出店がたしか原宿に、と記憶を辿り原宿クエストなる建物(再開発間近)にある「欅」といふ蕎麦屋に往く。昼前の11時半だつたが結構な賑はひ(出るときには外で十人ほど並んでゐた)。鴨せいろ。酒類提供解禁で昼から、といふか昼前から酒を飲むツレ多し。山手線に乗つたら車内で海鮮丼頬張る奇怪なるをんなあり。目黒から恵比寿あたりで食ひ終はりマスクもせずにふてぶてしさもまた格別。

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目黒。喜多六平太XIV記念能楽堂。能を見始めて畏友村上湛君に勧められ塩津能ノ會。舞囃子〈安宅〉は圭介師。松田弘之師の笛。圭介師は柳家三三師匠と似てゐる。やはり笑はない面。狂言(福の神)はすとんと肚に入らず。先日の万作世界の余韻にまだひたつたまゝなのかも。さうして能〈伯母捨〉。塩津哲生師。筋ぢたいはけして難しいものではなく事前に謡ひのテキストも読んでゐたのだが、このうち〈序の舞〉の素晴らしさをわかるにはまだまだ面白みがわかつてゐないと痛感。だが秘曲とされさう拝見する機会もない。湛君の解説によれば今日のこの〈伯母捨〉にはこれまでこれを演じたシテ方は数へるほど。そのなかで本日は高林白牛口二師が後見、香川靖嗣師が地謡で舞台に。これはすごいことなのだらう。大鼓は亀井忠雄師で笛は松田師。地謡には圭介師も。一つ楽しみは間狂言山本東次郎師で、これが物語の極みで聞きほれる。アタシに語つてくれてゐると錯覚するほど。隣席のをんながこの間狂言から序の舞まで寝入つてしまひ寝息には閉口させられた。


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せっかく目黒に来たので久々に目黒といへばトンカツの〈とんき〉に。

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緊急事態宣言明けの土曜日で台風一過の快晴とあつては黙つてゐても人出多さうでトンキも混雑かと察したが午後4時開店で能楽堂から5時前には着いたのでさほど待たずにカウンターに。従業員もずいぶんと若返つてゐたがトンカツも何だか昔より薄くなつてポークカツレツのやうな気が。頼んだのは単品だつたので酒を注文して酒のつまみのやうに食べるし定食で注文の場合と肉の厚さも違ふのか?と余計なことまで考へてしまふのは誰彼もよく書いてゐるが、このトンカツやはもはや一つの世界で美味い不味いではなく目黒のとんきに飰すといふことの満足感で悪い評価などいちいちしたくないといふ不思議な思考になつてしまふからなのかもしれない。品川始発の常磐線の特急も少しは乗客が多くなつたかと思つたが19:45発の「ひたち」はまだ/\空席ばかり。飲食店は20時までは酒の提供があるのでお終ひまで飲む連中がまだ帰宅の途についてゐない、といふことではあるまい。

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国慶節(昨日)で赤色に染まつた香港。有無を言はさぬ中共建国72周年である。香港市役所が開く湾仔会議展覧中心での国慶酒会。かつての梁“長毛”國雄君らによる妨害もなく林郑市長は国安法と香港の選挙制度改革により一国両制はまさに正規の軌道に乗つたと祝辞。初代市長の董建華がいつもなら横柄に振る舞ふところ今年は体調不良で欠席ださう。脚でも痛めたのか。
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中联办の骆惠寜主任が一昨日だつたか香港市中視察で民生改善に関心示したものだがか市役所幹部は挙つて低所得者の住宅や老人院など訪問したり公共施設の修理に従事。本当にそれが必要だと思ふのなら普段からさうした地道な活動でもすればよいのだが世界でトップクラスの厚遇で恵まれた環境でロクな仕事もしてゐないで威張つてゐるだけなのだから。

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中共国庆

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中共国慶。香港では国全体としての国慶を強調せず中共によつて香港にどれだけの安定と繁栄がもたらされてゐるかのPRに余念なし。

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- In politics the danger is that Mr Xi’s campaign degenerates into a cult of personality. 
- One is that the bureaucracy fails him. Mr Xi wants it to be responsive to market signals, but with promotions and purges in the air, China’s officials are jumpy. 
- Another danger stems from the ideological crackdown.

習近平の強権政治。強権の長期化ゆゑの深刻な問題も。巨大企業と超富裕層家した資本家も懲らしめて中央政府の支配力を強めるが習近平を懲らしめる勢力はなくカルト化、イデオロギーの陳腐化。習近平はこの体制を維持できても必ず訪れる終焉で「次」の政権の弱体化は明らか。その時に今以上にさまざまな問題が大きくなつてゐるわけで。

大相撲では横綱白鵬関の引退。双葉山の69連勝以外の記録を全て塗り替へた大横綱で不世出。後期は手段を選ばぬ勝ちへの執着や孤高感を見るにつけ習近平に同じものを感じてしまふ。

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香港の西の空に沈む太陽ださう